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2024年保存版】カスタマーサクセス最新ベンチマーク:参照すべきNRR・GRRは何%?

作成者: 弘子ラザヴィ|Oct 6, 2024 2:30:00 AM

カスタマーサクセス最新ベンチマーク:参照すべきNRR・GRRは何%?

NRR(ネット・レベニュー・リテンション)、そしてGRR(グロス・レベニュー・リテンション)は、カスタマーサクセス実践者にとって重要な指標の1つです。

  • 注:NRRとGRRの定義や算出方法などを確認したい方は こちらの記事 をご参照ください

本投稿のタイトルに関心をよせる皆さんなら「直近のNRRとGRRはそれぞれ何パーセントですか?」と聞かれて即答できることでしょう。ただ、「その数字は良い方なのかい?」と社長から質問されたらどうでしょうか。根拠と自信をもって明快に即答できる人は多くないかもしれません。

理由の1つは、ベンチマーク対象を同業他社や年間契約額(ACV)が近い企業に絞らないと比較の意味があまりない、どころか誤った評価をしてしまうリスクさえあること。

加えて、昨今のマーケット環境の影響で各指標の水準は全般的に悪化傾向にあるため、自社の「NRR1%減」がどのような意味をもつのか評価することが難しくなっているためです。

本稿では、2024年9月に米国で開催された SaaStr Annual で Gainsight CEO の ニック・メータ(Nick Mehta)氏が共有されたベンチマークデータをベースに、その他のデータも参照しつつ最新ベンチマークについての考察をご紹介します。

はじめに:SaaStr Annual 2024のセッション概要

ニックさんのセッションは「カスタマーサクセスが投資家から厳しく追及されるトピック10(10 Customer Success Topics Investors Will Grill You About)」というタイトルで、資金調達をしたい起業家に向けて、投資家目線の追求ポイントを解説する内容でした。

写真:SaaStr Annual 2024で登壇するニック・メータ氏

筆者が興味をひかれたのは、そこで紹介されたいくつかのベンチマークデータです。

それは、Gainsightの ベンチマークツール に収められた約700社分のデータセットから導かれたデータだそうです。同ツールは、Gainsightが自社プロダクトのユーザーへ提供しているもので、ARR、ACV、カテゴリーなどの条件でフィルター検索する機能も備えています。

なお、本題の「トピック10」が気になる方に向けて、本稿の最後に日本語を添えてご紹介しますので、宜しければぜひ最後までご覧ください。

また、本セッションは、YouTube( 05:09:56以降 )でアーカイブをご覧になれます。後半は会場からの質問に答えたり、お嬢さんとキリマンジャロを登山したエピソードからの学びを披露されたりしています。併せて視聴されるとより楽しめると思います。

1)NRR ネット・レベニュー・リテンション

Gainsightのベンチマークから、NRRの中央値について会社全体のARR別に示されました。

出所:SaaStr Annual 2024

また、NRRの全体平均 102%、前年比 ▲3%、NRR水準別の構成比が示されました。NRRのボリュームゾーンは100~110%、次いで90~100%です。

出所:SaaStr Annual 2024

ここでニックさんが補足したのは以下の点です

  • 前年比▲3%は、多くの大企業のデータが含まれた結果です。私は、数多くのスタートアップ企業で、NRRが前年比▲10%、▲15%、▲20%と低下した事例を知っています
  • NRRの増減は要素分解して理解する必要があります。要素毎に解決策が異なるからです
  • アップセルを望むならマーケティングを改善し、クロスセルを望むなら販売する商材を増やさなければなりません、解約やダウンセルの抑制を望むなら別の対策が必要です

考察

一般的に、NRRの水準はACVの大きさと相関関係があります。詳しくは記事「未上場SaaSにとって"Good"なリテンション率は?:2023年ベンチマーク」を参照ください。

踏まえてGainsighのベンチマークを見ると、ACV別ではなくARR別なため明確性が多少欠けますが、ARRが$100M(約150億円)以上の企業のNRRはほぼ110%と高水準です。

参考まで、評価額合計が約2兆ドルにおよぶ公開SaaS企業を分析するMeritech Software Pulseが示すNRRの最新トレンドは以下の通りです。公開企業、つまりARRが数百万ドル超企業のNRR中央値は、下降トレンドからほぼ底をうった現在、110%がベンチマークです。

出所:Meritech Capital

  • 注:「Net Dollar Retention」は「ネット・レベニュー・リテンション(NRR)」と同義です

ニックさん言う通り、こうした平均値からは伺い知れないミクロ単位のトレンドもあります。

以下は、公開企業の中でもトッププレイヤーのNRR(2022&2023)です。昨今のマーケット環境の影響をうけ、トッププレイヤーでさえNRRは一斉下落トレンドです。

出所:westmonroe

踏まえて結論:

  • ACV $250K(約3750万円)超、ARR $100M(約150億円)超、ないし公開企業のベンチマークは110%
  • 上述以外、特に未公開企業のベンチマークはACV別水準を参照すべし(詳細こちら)、その上でざっくりいえば 100~110%の間
  • マーケット環境要因で全般的にNRRは下落トレンド。「下落 = バツ」と捉えず、自社と同じACV規模(更に同業他社等)のベンチマークを確認して判断すべし

2)GRR グロス・レベニュー・リテンション

Gainsightのベンチマークから、NRRの中央値について会社全体のARR別に示されました。

出所:SaaStr Annual 2024

ここでニックさんが補足したのは以下の点です

  • 中小企業向けプロダクトを提供する企業のGRRは 70%代半ば~80%代半ばです
  • エンタープライズ向けの特定機能アプリを提供する企業だと 85%代~ 90%代前半です
  • CRM、ERP、会計、HR など SoR(システム・オブ・レコード)系のコアシステムを提供する企業では 95%以上、サービスではほぼ 100%です
  • GRRの前年比は▲1%。これも大企業のデータが含まれた結果で、中規模企業の GRRは前年比で 5~10% 低下しています

考察

一般的に、GRRは、ACVやARRとの明快な相関関係はないと言われます。強いて言えば、創業間もない若い企業は経験を重ねた企業よりもGRRが高くなる傾向(詳しくはこちらの記事の「偽善問題」をご覧ください)を指摘されることはあります。

ニックさんもデータを紹介しながら「GRRは少し不均一で、明快なトレンドなどはみられません」と言い添えつつ、上述の点を補足されました。

踏まえて結論:

  • GRRのベンチマークは、自社ビジネスに類似のお手本企業の水準を参照すべし
  • ざっくり、SoR系プロダクトを販売するなら95%以上、それ以外のエンプラ向けプロダクトなら90%前後、中小企業向けプロダクトなら85%以上がボールパーク
  • GRRも下落トレンド。「チャーン上昇に苦しんでいるのはあなただけではないよ」というニックさんの優しい言葉を胸に、地道にできることをコツコツ積み重ねましょう

3)カスタマーサクセス費用の対ARR比率

Gainsightのベンチマークから、カスタマーサクセスに費やした金額をARRで割ることで求めたARR比率の中央値が、会社全体のARR別に示されました。

出所:SaaStr Annual 2024

会社全体のARRが$50M(約75億円)より小さい企業では数値が多少ばらけていますが、$50M以上だと規模が大きくなるにつれてARR比率が低くなる、つまりカスタマーサクセスの効率性が向上することがわかります。

また比率をみると、全社ARRが$1B(約1500億円)超の企業を除けば、数%~10%の幅にあります。

考察

カスタマーサクセスの費用感については、記事「カスタマーサクセスの費用は売上の何%:SaaS企業の最新ベンチマーク」で詳しく紹介しました。その時の結論は「新ノーマル:ポストセールスの費用は売上の10%」でした。

通常、「売上」には「ARR」以外の収益が加算されるため、対売上比率は対ARR比率より低くなります。一方、上述ベンチマークの分子は「カスタマーサクセス費用」であり、その他のポストセールス費用、例えばサポートに費やした金額は除かれます。

といった細かい差はあるものの、「10%」という数字が1つのベンチマークになることが、Gainsightのベンチマークからも確認できました。

踏まえて結論:

  • ポストセールス(サクセス&サポート)の費用は売上の10%
  • カスタマーサクセスの費用は ARRの10%(それ以下がベター)

4)CSM1人あたり担当顧客数、ARR

まず、Gainsightのベンチマークから CSM1人あたりが担当/管理するARRの平均値が示されました。$2.76M(約4億円)です。

出所:SaaStr Annual 2024

続けて、CSM1人あたりが担当/管理するアカウント数の中央値が、ACV別に示されました。

出所:SaaStr Annual 2024

ここでニックさんはデータについて詳細を語らず、次のアドバイスを補足しました。

  • カスタマーサクセスとは、CSMをたくさん雇うことではない、と私は強く信じています
  • CSMを大量に雇う代わりに、最初は1人か2人だけ雇いましょう。極端に聞こえるかもしれませんが、それが正解です
  • 大量のCSMを雇わずにスケール​​できるよう、プロセスとプロダクトを見直してください

考察

Gainsightのベンチマークを見て筆者が興味をひかれたのは、ACV $10K(約150万円)を境に、CSM1人当たりの担当アカウント数の桁が変わる点です。

そして、それは昨今のトレンドを踏まえると非常に納得いくものです。

ACVが$10K未満の場合、恐らくオンボーディングなど限定的タイミングでCSMがハイタッチ対応するものの、その後はテックタッチ施策がメインとなり、結果としてCSM1人当たりの担当が数百社という数字になるものと思われます。

ACVが数百万円以上であれば、恐らく重要アカウントを中心に担当CSMがつき、同時にスケーラブルなカスタマーサクセス体制を敷くことで、担当CSMとしてハイタッチ中心に活動するCSMさんの担当アカウント数は限定数社になっていくと思われます。

最たる例は Cloudflareです。同社は「スケールするカスタマーサクセス」を推進した結果、戦略カスタマーを担当するCSMは1人 6社~最大30社を担当する一方、担当CSMがつかないカスタマー 1万社を 14.5人のCSMでカバーしています。

  • Cloudflareの事例を紹介するウェビナー詳細は こちら をご参照ください

踏まえて結論:

  • 重要顧客を担当するCSM 1人あたりの担当顧客数は 数社~30社
  • 担当CSMがつかない顧客も含む全顧客ケアを目指し、スケールするカスタマーサクセス体制を整えるべし

最後に:カスタマーサクセスが投資家から厳しく追及されるトピック10

ニックさんのセッションの本題である「カスタマーサクセスが投資家から厳しく追及されるトピック10」についてご紹介します。以下が、具体的な10項目です。

出所:SaaStr Annual 2024

日本語(文責:筆者)にすると以下の通りです。

  1. 御社のNRR はどのように要素分解 していますか?
  2. コホート単位の GRR は何%ですか?
  3. 御社のビジネスの 早期警告指標は何ですか?
  4. 顧客を定着(stickyに)させる要因は何ですか?
  5. リテンション改善に向けどのような業務/活動をしていますか?
  6. 顧客が受け取っている価値を明示するために何をしていますか?
  7. 最大の支持者(advocates)は誰ですか?
  8. カスタマーサクセスはどのようなコスト構造ですか?
  9. 効率的にスケールさせるために何をしていますか?
  10. カスタマーサクセスでどのように AI を活用していますか?

いかがでしょう?

気になるトピックがあれば、ぜひアーカイブでニックさんのアドバイスを聴いてみてください。

最後の最後に、10項目の中で筆者が個人的に興味をひかれた「7. 最大の支持者(advocates)は誰ですか?」について補足します。

ポイントは「支持者(Adovocates)」の定義で、ニックさんは次のようなチェックリストを紹介されました。


出所:SaaStr Annual 2024

日本語(文責:筆者)にすると以下の通りです。

  • 実際に プロダクトを使用している!
  • 友人でも、投資家の投資先企業でもない
  • 完璧にプロダクトを使いこなしている
  • 高い ROI または価値を得ている
  • プロダクトの熱狂的なファン
  • テキストメッセージを送りあう関係にある

重要なのは、これを質問する投資家は「プロダクトで価値を得ている人」と話したがっているという点です。

つまり、プロダクトを実際に使っている人であることは大前提な上で、単に「よく使っている」「気に入ってくれている」人では不十分です。推薦すべきは、投資家に対して具体的に得ている価値を明確に伝えられる人でなければなりません。

ニックは言います。

推薦した支持者が、投資家から質問されたときに、プロダクトから得た価値について明確に表現できるよう予め支援する必要さえあります。それは恥ずかしいことではありません。
(価値を明確に伝えられないような)弱い支持者を推薦することは、推薦者がいないことよりも最悪です。

そうした「リアル」な支持者をもつために、ニックさんからのアドバイスは以下2つ:

  • 推薦した支持者が投資家に示せるよう、価値を具体的な数字(データポイント)にまとめた参照資料を用意して共有しましょう、実際それは私のチェックリストの1つです
  • 推薦した支持者と自分がテキストメッセージでやり取りする関係を築くことが大切です。そうした強い関係が築ければ、VCとのコール直後に彼らからフィードバックが届きます

以上、SaaStr Annual 2024 でのニックさんのプレゼンから、重要なベンチマークデータを中心にとりあげ考察をご紹介しました。皆さんのビジネスにとってヒントになることが1つでもあったなら幸いです。