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カスタマーサクセスの常識を打ち破る!GitHub のCSコパイロット

作成者: 弘子ラザヴィ|Oct 8, 2025 3:30:00 AM

今日、売上成長し続けるには、既存の顧客基盤から生まれる収益(LTV)の最大化が不可欠です。その鍵を握るのがカスタマーサクセス(CS)ですが、専門知識を持つCSMやサポートエンジニアのキャパシティには限界があり、それが成長のボトルネックとなることも多いです。

GitHub(ギットハブ)も正にそうした企業の1社でした。

同社は、DevSecOps(開発初期からセキュリティを自動継続的に組み込むソフトウェア開発のアプローチ)の流れをうけ顧客数が急速に拡大。それに伴い、専門知識に対する需要が爆発的に増加する中で、人のリソースだけでは全く追いつかない事態に直面したのです。

そこで、信頼できる人間の専門知識とAIガイダンスとを融合させることで、カスタマーサポートオンボーディングアダプション、そしてグロースという4領域において、従来の常識を超える顧客価値の実現に挑戦することを決めました。

成果は既に数字に表れています。GitHubが展開する「CSコパイロット(Copilot for Customer Success)」は、開始からわずかな期間で「200万件以上の対話」を処理し、「自己解決成功率68%」という驚異的な成果を達成しました。

これは単なる数字ではありません。結果として、何十万時間分のリソースの節約、応答時間の改善、チケットの回避につながり、同時に、ユーザーはGitHubの最高の専門知識を即座に得ることが可能となり顧客満足の向上につながっています。

本稿では、同社の先進的な取り組みに着目し、日本のビジネスリーダーが自社の成長戦略に活かすことのできる実践的な示唆を抽出していきます

本稿のポイント

  • GitHubは、AIを活用したCSコパイロットを、「業務効率化ツール」ではなく、顧客のTime-to-Value短縮を最優先した「顧客への価値提供エンジン」として設計
  • 社内に眠る「宝(既存ナレッジ)」を、検索・要約・根拠を提示し再利用できるようにしたことで、その価値を倍増させた
  • 「AIは量とスピード、人は質と共感」という役割分担ルール、「ヒューマン・イン・ザ・ループ」体制を基軸にAI活用の仕組みを構築
  • 「顧客価値」を基準に成果を測定することで、AIの活用を売上成長メカニズムに直接組み込む
  • 優れたAI体験を構築する上で、何よりも「信頼」を重視し、小さく始めて反復的に改善を繰り返すアプローチを採用
  • AIで人間を置き換えることではなく、AIで人間がもたらすインパクトを増幅させ、もって顧客に最大の価値を届けることに焦点をあてる姿勢が学び

1. はじめに

本題に入る前に、GitHubについて簡単にご紹介します。

GitHubは、2008年に設立された米国のソフトウェア企業で、本社はサンフランシスコにあります。世界中で活躍する1億人以上のソフトウェア開発者がソフトウェアのコードを管理し、他者と協力して効率的に開発を進めるための世界最大のソースコード管理プラットフォームです。

2018年にマイクロソフトの一員となり、AzureやCopilot(AIアシスタント)との連携によるシナジー効果も得て好業績を続けています。マイクロソフトの決算報告によると、GitHubの収益成長率は40%超、ARRは約20億ドル(約3000億円)を見込み、クラウドサービス事業全体の成長にGitHubが大いに貢献しています。

本稿は、GitHubの Customer Success Engineeringである Victor Pikula氏 が率いるチームによる公開情報『2 million conversations and counting: How Copilot is scaling customer success』の内容を基に、筆者の考察を纏めたものです。

なお、取り組みの詳細内容にご関心のある方は、以下の解説動画(約17分)を併せてご視聴ください。

 

2. 顧客に届ける価値の向上を優先

GitHubは、AIを活用したCSコパイロットを「業務負荷の省力化ツール」ではなく、「顧客への価値提供エンジン」として設計しました。

多くの企業がAIを導入する際、まず社内業務の効率化から着手しがちです。しかし、GitHubは意図的にその優先順位を下げました。代わりに、顧客が使う画面(Customer-Facing Surfaces)にCSコパイロットを直接組み込むことで、顧客に届ける価値の向上を優先したのです。

具体的には、課題を抱えた顧客が、サポートチケットを発行する前にCSコパイロットと会話することで一般的な技術的問題を自己解決し、頻出する問題へのチケット発行を防止します。つまり、顧客が課題に直面したその場で自己解決し、価値実現までの時間(Time-to-Value)は劇的に短縮します。

「私たちは、社内ワークフローから始めるのではなく、まず外部の顧客向け生成AI体験に着手するという選択を意図的に行いました」

この戦略的な選択の背後には、AIの役割に関する同社の明確なビジョンがあります。

社内向けにAIを活用した場合、担当者の生産性は向上しますが、彼らの「仕事」そのものは依然として残ります。一方、社外向けにAIを活用した場合、顧客が自己解決できる環境を提供することで、問い合わせ対応という「仕事」自体を無くすことができます。つまり、貴重なリソースをより付加価値の高い対話に集中配分でき、かつ顧客体験の質を劇的に向上させられるのです。

このように、顧客価値を優先した結果、顧客価値実現の早期化と同時に社内業務の効率化の両方をスケーラブルに強化できる成長モデルを構築しました。

3. 社内に眠る宝・既存ナレッジの価値をAIで倍増

GitHubは、社内に眠る「宝」の価値を、CSコパイロットにより倍増させました。

同社には、GitHub Docs、Well-Architected Framework に収納されたアーキテクチャガイダンス、サポート記事など、信頼できる膨大な知識が蓄積されています。しかし、こうした知識は分散しており、顧客は必要なガイダンスを見つけるのに大変苦労しました。結果、そうした優れた解決策が既にある質問に対しても、サポートやサクセス担当者が日常的に回答していました。

そんな中、DevSecOpsの採用加速に伴い顧客とのやり取り量が増大し、GitHubの専門知識に対する需要が人間のキャパシティだけでは到底満たせない速度で拡大していました。

そこで、GitHubの知識と経験に誰もが予約や待ち時間なしに、数十もの言語でアクセスできるCSコパイロットを導入しました。

具体的には、Azure AI Search のハイブリッド検索機能(文脈を理解するベクトル検索とキーワードに強い全文検索の組み合わせ)を活用することで、顧客の質問の意図を正確に捉え、膨大な知識の中から最も関連性の高い情報を瞬時に引き出し、顧客の質問にリアルタイムで回答・ガイドする仕組みを導入したのです。

このように、新しい知をゼロから作るのではなく、これまで一部の専門家の頭の中にあった暗黙知さえ構造化された形式知へ変換し、検索・要約・根拠提示を通じて再利用できるようにしたことで全顧客が24時間365日アクセスできる強力な資産へと転換させることに成功しました。

4. ヒューマン・イン・ザ・ループ体制こそが最強

「ヒューマン・イン・ザ・ループ」とは、「AIは量とスピード、人は質と共感」という役割分担ルールに基づき、AIと人間が得意分野で協業する体制です。

GitHub が目指すAI活用は、人による接点を不要にすることではなく、人による接点のインパクトを増幅し、顧客へ届ける価値を最大化することです。そんな同社は、「ヒューマン・イン・ザ・ループ」体制を基軸にAI活用の仕組みを構築しました。

具体的には、CSコパイロットが顧客のコンテキストに応じた信頼できる回答を瞬時に提供し、一方、人間の専門家(サポートチーム、CSM、アーキテクト)はより深い専門知識と人間的な判断が求められる接点に集中します。このように、AIと人間の判断を組み合わせることで、サポートチームやCSMのリーチできる顧客接点が拡大し、これまでアクセスできなかった顧客にも、プロアクティブかつリアクティブに支援できるようになりました。

また、この協業体制を支えるのが、サポートエンジニア向けに設計されたコパイロットです。それは、複雑な問題の要約、過去の類似エスカレーションの検索、次のアクションの提案、信頼できるデータに基づいた返信の下書き作成などを支援します。

さらに、継続的な学習を通じてCSコパイロットの質が改善されるよう、明確なフィードバックループを確立しました。具体的には、GitHubのエンジニアが、キュレーター、レビュアー、プロンプト作成者といった役割りを担い、現実世界の専門知識を、構造化された信頼できる知識に変えて、コパイロットにフィードバックし続けています。

このように、GitHubが実践するヒューマン・イン・ザ・ループ体制は、AIが専門家の作業を置き換えるのではなく、「専門家が磨いたAIがさらに専門家を有能にする」という未来を明示しています。

5. AI活用の成果は『顧客が受け取る価値』を基準に測定

GitHubの取り組みが優れているのは、AIの活用が直接的に売上成長のメカニズムに組み込まれている点です。

一般的に、AI導入の成果を測る指標として、コスト削減や業務効率化といった指標を用いることが多いです。しかし同社では、「顧客の価値」指標で成果を測定・評価します。

具体的には、自己解決成功率(SHS: Self-Help Success)。開始からわずかな期間で、SHS 68%超という驚異的に高い水準を記録しています。同時に、CSコパイロットが関与したサポートチケットは顧客満足度(CSAT)が +0.15%高いことも確認しています。

このように、単なるチケット削減数ではなく、顧客が「チケットを発行せずにより速く自信をもって問題を自己解決した」という、カスタマーが受け取る価値を測定し、顧客体験の質と信頼感が高まっていることを確認します。

次に、導入(アダプション)の加速です。Customer Success Architectsと呼ばれる同社のCS担当者が、「Well-Architected Framework」と呼ぶGitHub活用に関する社内英知に基づいたアーキテクチャの推奨事項を提案することで、顧客はプロダクトをより効果的に導入、活用でき、導入後の手直しが減ります。こうした、顧客の目標に合わせたプロアクティブなガイダンスの提供は、顧客がより早くGitHubの価値を認識し、導入、活用するのに役立っています。

そして、リテンションとアップグレードにおける摩擦の低減。課金、ライセンス、サブスクリプションに関する質問を明確化する請求統合機能を提供することで、更新やアップグレードにおける顧客の摩擦をどれだけ取り除けたかを測定します。

こうした指標を用いていることからも、GitHubがAIを、単なる効率化のツールではなく、顧客への提供価値とプロダクトへのエンゲージメントを高める戦略的投資と位置付けていることが伺えます。

6.千里の道も一歩から:「信頼」を第一に小さく始めて反復改善

GitHubは、優れたAI体験を構築する上で「信頼」を最も重視し、3つの原則に基づいて行動します。

1つめは、「信頼が第一 (Trust first)」。

信頼できる知識の基盤がすべてのベースです。CSコパイロットの回答は、GitHub Docsや内部ナレッジなど、信頼できる情報源を引用すると共に、ハルシネーション(AIが事実に基づかない情報を生成すること)を検知するフィルターなどのガードレールを導入して回答の信頼性を担保しています。

特に、請求など機密性の高い内容については、Azure AI Content Safetyを使用し、情報源を正確に反映しない「根拠のない(ungrounded)」回答をAIが生成することを確実に回避します。こうした、現在のAIの能力を超える質問については、専門家(人)が判断し回答することで、顧客を誤解させる回答を未然に防ぎます。

2つめは、「AIと人間の共創 (Human and AI, better together)

エンジニア(人)がAIの回答をレビューし、プロンプトを改善する「キュレーター」として機能します。この継続的なフィードバックループは、単にAIを賢くするだけではありません。エンジニアが現場で得た専門知識を構造化されたナレッジとしてシステムに還元する仕組みそのものであり、先に述べた社内の「宝」を継続的に豊かにしていく好循環を生み出しています。

3つめは、「責任ある設計 (Responsible by design)」

プライバシー保護や公平性は、後付けの機能ではなく、設計の初期段階から組み込まれています。マイクロソフトのAIチームと密接に連携し、厳格なモデル評価とユーザーフィードバックループを通じて、倫理的な使用を遵守しています。

信頼性にこだわる3原則に基づき、利用するAIモデルも、GPT-4からGPT-4o、そして最新のGPT-5へと段階的にアップグレードしました。この経緯からも、同社が「信頼性を確保しながら、小さく始めて反復的に改善を繰り返す」アプローチを採用したことが分かります。

7. 結論:AIは顧客価値の最大化に活用せよ!

GitHub から学ぶべき重要な点は、AIで人間を置き換えることではなく、AIで人間がもたらすインパクトを増幅させ、もって顧客に最大の価値を届けることに焦点をあてる姿勢です。

AIの活用は、あくまで手段であり、目的ではありません。目的は「カスタマーへ届ける価値の最大化」であり、結果として自社が売上成長することです。周囲のAI活用を安易に真似て、カスタマーへの価値という視点が不在のままAI導入を急いだならば、せっかくの投資も水の泡に帰すでしょう。

そして、AIは常にデータとセットで価値を発揮する、という点も見逃してはいけません。GitHubがAiを活用し始めてから短期間で成果をだしている理由の1つは、同社に信頼できるデータ(宝)が既に存在していたからです。

これを機に、御社ならではの「知識・ノウハウ」は何なのか、それをAIで普遍化し次なる成長のエンジンへ変貌させるにはどういう戦略があるのか、についてぜひ検討してみてください。皆さんの成果について伺えることを楽しみにしています。