WordPressでお馴染みのPantheon 副社長(VP)としてカスタマーサクセスチームをゼロから立ち上げ、数年で30人近くに成長させたご経験をお持ちのスコット・マッセイさん。
筆者が2018年頃に海外のカスタマーサクセス事例を調査していた時、スコットさんは日本を拠点にしていたこともあり、彼の経験から大いに学ばせてもらいました。
そんなスコットさんが、2018年にインタビューで披露されたお話を紹介します。彼がパンティオン(Pantheon)でカスタマーサクセスチームを立上げた時の事例ですが、数年経た今でも全く色あせていない定石が詰まっています。
この事例のポイント
- まずサポートチームを強化、次にオンボーディングチーム、そしてドキュメンテーションチームを作り、最後にカスタマーサクセスマネジャー(CSM)を配置した
- カスタマーサクセスは単なるサポート業務ではない、ということを社員全員に浸透させ、問題が生じる都度、会社全体で問題解決に当たる組織になることが何より重要
- カスタマーサクセスがリテンションにどう影響し、リテンションが会社の業績上どのような意味を持つのかについて、明快な数値事例を持つことも非常に重要
- カスタマーサクセスチームこそが、あらゆる視点や意見を見渡し、取りまとめ、解釈を与えることで、単なる思いつきや根拠不在の希望的観測ではない、カスタマーの真の声を提供できる

注:スコットさんの許可を頂きインタビューの和訳を紹介します。
スコットさんの経歴を教えてください
私はずっと、ITマネージドサービスを利用する人向けに、サーバーに生じた問題を解決するサポートチームを運営してきました。
約5年前、マイクロソフトのロゴが付いたカーキ色のシャツを着てサンフランシスコに到着して以来、カスタマーサクセスに取り組んでいます。
私は、パンティオンでカスタマーサクセスチームを立ち上げました。
同チームの主な役割は、同社のPlatform-as-a-Serviceを利用する開発者であるユーザーがそのサービスを上手く利用できるよう支援することでした。この仕事を経験したことで、カスタマーサクセスの基本的な考え方や、それが同社の業績に大きく貢献する点にとても興味を持ちました。
それで私はカスタマーサクセスのミートアップ(注:自主勉強会)に参加したり、自分がミートアップを主催したりということを、昨年日本に来る直前まで数年続けていました。
日本は私がある縁で恋に落ちた国で、実は2007年まで住んでいました。その後一旦米国に戻りましたが、恋しくなって昨年再び戻り、コンサルティング会社、Astrocolossalを立ち上げました。なので私は、サンフランシスコと日本と両方を経験しています。
パンティオンでカスタマーサクセスチームを立上げるために何をしましたか?
私が入社した当時のパンティオンはまだとても小さく、カスタマーサクセスチームの役割も基本的にはサポートの役割とイコールでした。
当時を振り返ると、カスタマーサクセス自体がまだかなり新しい概念で、さまざまな考え方があり、差別性ある明快な機能として確立していませんでした。そこで我々がまず最初にすべきだったのは、サポート機能を構造化したりサービス品質を強化することでした。
そしてそれに目処がついた後でようやく、カスタマーやユーザーが我々のプラットフォームをよりスムーズに利用開始するにはどうしたらいいか、を検討し始めました。
そう、いわゆるジャーニー構築です。つまり、オンボーディングを出発点とするカスタマージャーニーをしっかり描くということです。
具体的には、我々がターゲットとるするユーザーのペルソナを詳細に定義し、各ペルソナごとに、オンボーディングに無事成功してもらうにはどうしたらいいのかを、彼らがつまずきそうなポイントを洗い出して、よくよく考えました。誰だって、自社のユーザーがサービス利用直後に問題と格闘する経験をして欲しくはないですよね。
そうしてまずオンボーディングチームを作りました。最初は私自身もオンボーディングチームの1人として、オンボーディング支援を繰り返し何度もなんども行いました。やがて私よりもずっとオンボーディング支援が上手くなったメンバーを何人も雇い、私は裏方に回って管理業務を引き受けるようになりました。
そうこうするうちに、割と早い段階で、オンボーディングについて誰もが参照できる統一されたマニュアルが必要だということに気づきました。というのは、我々のプロダクトは割と複雑なうえ、プロダクトのユーザーも、API等を駆使した仕事をしていて最先端テクノロジーを要求する開発者が多くいたからです。
そこで、私の配下に、社内ドキュメンテーション(マニュアル作成)チームを作りました。彼らは、プラットフォームを利用するカスタマー向けのトレーニングを担当するトレーニングチームとも連携しました。
まずサポートチーム、次にオンボーディングチーム、そしてドキュメンテーションチームを作り、実は最後に、カスタマーサクセスマネジャー(CSM)を配置しました。
彼らは、オンボーディング直後からハンズオン支援を必要としている、実務レベルも契約額もトップクラスのカスタマーに付き添い、彼らが我々のサービスを上手く使えるように全体俯瞰する役割を担いました。
カスタマーサクセスチームをスケールさせるには?
最も重要なのは、あらゆる部門にカスタマーサクセスを哲学として徹底的に浸透させることです。
サポートチームの名前を単純にカスタマーサクセスチームに変えただけで、良い仕事をするのに必要なツールを与えないでいれば、決して上手くいきません。カスタマーサクセスチームこそが、社内の誰よりもプロダクトを使う人とのやり取りを最も頻繁にするわけですから、彼らにフィードバックする手段を与えなければ意味がありません。
カスタマーサクセスチームの中でも、その点を明確にする必要があります。
もし、カスタマーサクセスチームが、プロダクトをどう改善したらいいのかのフィードバックや、プロダクトがどう販売された結果、実際どう利用されたのかのフィードバックを、フィードバックプロセスが無いがために出来ないならば、カスタマーサクセスという仕事は非常にフラストレーションが高い仕事になってしまうでしょう。
従って、カスタマーサクセスとは何なのか、それは単なるサポート業務ではない、ということを社員全員が正しく理解するまで徹底的に伝えて浸透させることが何よりも重要です。
カスタマーサクセスチームは、ユーザーとのやり取りを経てプロダクトのエキスパートになるかもしれませんが、それだけでは会社全体の競争力としては片手落ちです。
プロダクトチームが、彼らから適切にフィードバックを得て、理想的にはサポートやカスタマーサクセスチームの負荷が減るように、プロダクトをより良いものへ改善する必要があります。なぜなら、より高度な要求をしてくるレベルの高いカスタマーがどんどん増え、そういうカスタマーがますます収益の大部分を占めるようになるからです。
そして、常に新しい問題も発生し続けます。従って、問題が生じる都度、カスタマーサクセスチームからフィードバックを得ながら、会社全体で問題解決に当たることのできる組織になることが超重要なのです。
カスタマーインサイト(洞察)を組織全体へどう共有するのですか?
カスタマーサクセスにおいて「期待値」が共通テーマなのと似ています。
つまり、カスタマーサクセスチームでは、カスタマーの期待値をいかに正しく設定し・合意するか、というのは永遠の議論テーマです。そうした共通テーマとして、カスタマーに関する示唆深い情報が会社の経営層にまで広く知れ渡り、実際に経営メンバーが耳にしたり関心を払うようになることが必要です。
外から来たばかりのカスタマーサクセスマネジャーが大いに活躍し、そして会社もより競争力を高めていけるためには、明快なフィードバックループを持つことが非常に大切です。
同様に、カスタマーサクセスチームが、プロダクトチームやエンジニアリングチームと対等な立場でテーブルについて議論できることが超重要です。
また、これは私の個人的な見解ですが、カスタマーサクセスがリテンションにどう影響し、そしてそのリテンションが会社の業績上どういう意味を持つのか、に関する明快な数値事例を持つことも非常に重要です。
なぜなら、会社が成長するにつれ、日々の膨大なルーティン業務の中で、プロダクトに新たな機能を追加するとか、会社が何かを新たに提供するとか、そういった潜在的な成長余地を議論する際、「売上」が常に論点になるからです。
そういう時にカスタマーサクセスとしてすべきだと思う変更を売上数値と関係付けて説明できる手段がなければ、議論が平行線になります。従って私は、カスタマーサクセスチームの人々は、自分が大切だと思うことを、ある程度実際のデータの裏付けと共に説明できる必要があると思っています。
カスタマーサクセスをどう測定しますか?
私は、バランススコアカードが大好きです。異なる視点に基づく幾つかの重要なメトリクスを設定することが非常に重要だと思います。
カスタマーサーベイ(訳者補足:アンケート調査)だけでは不十分と思う人もいるし、具体的な利用状況に関する正確なデータを把握したいけれど全体像が見えない詳細データだけに依存するのも不十分だと思う人もいるでしょう。なので、異なる視点で分類された情報をバランスよく把握したいと思うのは自然です。
プロダクトに応じてユーザータイプが異なるので、一概にどの情報が優れているとは言えません。単純に、クリックで簡単に入手できる情報だから使うというのではなく、ユーザーが我々のプロダクトをどれほど好んで利用しているのかに関するリアルな本音が把握できると信じられる情報を利用すべきです。
加えて、実際のプロダクトの利用データを入手し、それがどのプロダクト特性をどう利用しているのかと紐付けて入手できることも非常に重要です。なぜなら、プロダクト特性の追加リクエストは常に山ほど集まるからです。
通常、プロダクトをローンチした直後は次に何をすべきかが非常に明快ですが、時の経過と共に、徐々に次にすべきことが分かりにくくなるものです。
使われない特性がテンコ盛りになるのを回避するには、どの特性がどう利用されているか把握したいと思うでしょう。従って、そのようなデータが全てきちんと議論テーブルに載ることが重要で、それこそ正にカスタマーサクセスチームの重要な役割なのです。
なぜなら、彼らこそが、あらゆる視点や意見を見渡し、取りまとめ、解釈を与えることで、単なる思いつきや根拠不在の希望的観測ではない、カスタマーの真の声を提供できるからです。
カスタマーを理解するために、どのようなデータをどう活用しますか?
カスタマーサクセスは人間同士のやり取りです。私はカスタマーサクセスが100%データ主導である必要はないと思っています。
一方、私はパンティオンでマーケティングチームと一緒にデータに基づいてカスタマーを理解し、初期のペルソナを実験的に作ったことがあります。それはとても有意義な経験でした。
なぜなら、マーケティングチームはペルソナ構築の経験が豊富ですが、彼らは常にファネルの入口にいるペルソナを考えていて、でもそのペルソナがファネルを通過して反対側、つまり出口に至るまでにはどんどん変わっていくからです。
データに基づき自社プロダクトの利用者たちの特徴をペルソナとして定義することは、出発点として非常に役に立ちます。ペルソナ定義の次は、ペルソナ毎にカスタマージャーニーを定義します。通常、先に述べたオンボーディングがジャーニーの出発点になるでしょう。
そこから先は様々です。無料サービスから有料サービスへの移行とか、AプランからBプランへの乗り換えとか、あるプロダクトの初回の利用、2回目の利用、3回目の利用という変遷だとか、API統合だとか、本当に様々なジャーニーがありえます。
そういう様々なジャーニーを横軸に、そしてペルソナを縦軸において、マトリクス表を作成し、各格子の中身について、誰がどう上手くプロダクトを使っているとか、誰が何に困っているとかの詳細を書き出します。
そして、その中で気になる特定グループに対し、プロセスやドキュメンテーションやツールをどう改善したら良くなるか、ということを明らかにしていきます。
会社が成長するにつれ、最初は想定していなかった新しいペルソナが重要なカスタマーとして台頭するのを発見したり、逆に存在感が薄くなりやがて消えていくペルソナもあるでしょう。
そうしたペルソナの動きをデータで正しく把握できていれば、あるペルソナを今後は自社プロダクトのターゲットにしない、という辛い意思決定を下すことも出来るようになります。
注目するカスタマーサクセスのテクノロジー動向は?
現在は、様々なデータを取得したり、カスタマーサクセスの総合スコアを構築するのに役立つ、優れたプロダクトが沢山あります。
それらは、マーケティングオートメーションや、セールスオートメーションとも統合され、販売のビフォー&アフターやカスタマーのライフタイム全体など、様々な局面を統合して理解するのに大変役立ちます。
私は、そういうプロダクトを作る会社が、機械学習を用いて何をしているのかをじっくり観察していますが、それらは本当に素晴らしい内容です。
重ねて、私が超重要だと信じて何度も強調したいのはカスタマージャーニーです。
カスタマージャーニーは多くの企業が広く利用していくことでしょう。結果、ジャーニー上のマイルストーンや、目からウロコな瞬間などが次々と明解になり、人々はジャーニーに沿って先へ進みたいと考えるようになるでしょう。
カスタマーサクセスが望むもの、プロダクトが望むもの、最終的には組織全体が望むもの、という流れで、やがてそれらは統一されたものになっていきます。
私は、ジャーニーの活用が時と共にどう発展しているかをずっと観察していますが、それはますます良くなっています。
カスタマージャーニーをどう活用しますか?
営業活動を1つのモデルと捉えたり、マーケティングを1つのモデルとして捉え、人々がそのプロダクトをどう見つけ、使い始め、有料サービスを利用し始め、そしてカスタマーになっていくのかを理解することが出来ます。
なぜなら、それはある意味でジャーニーの一種だからです。
売上は、ある人にとってその価格なら欲しいと判断した任意のマークのようなものですから、その価格なら要らないと思う人もいますし、もしそれがフリーミアムサービスなら何ヶ月も何年も前から使いたかったと思う人もいるでしょう。
従って、それは非常に有機的なプロセスであり、ご承知の通り、本当に様々な計測方法があります。なので通常、オンボーディングがジャーニーの出発点になるのです。
考えてみてください、こうしたことをあなたは知りたいですよね?
オンボーディング後、あなたのカスタマーがどこで一番困り、何に対して苦情を言っているのか。「使えないよ!」「こうしたいのに出来ないよ!」とか、その機能が本当に必要と思っているかの本音とか。ある特定のペルソナが実はもっと良いドキュメンテーションを必要としてるとか、何をどう使えば良いかをリマインドするキャンペーンが必要そうだとか。
そういったこと全てを知ることができるのです。
従って、プロダクトを良く観察し、そのプロダクトを利用するカスタマーを良く観察する必要があり、そうすることでパターンを見出すことが出来ます。そしてパターンを見出す上で、カスタマージャーニーは非常に優れた出発点になるのです。
カスタマーサクセスに挑戦する人が、知恵と勇気と仲間を手にする実践者コミュニティ「SuccessGAKO」
SuccessGAKO(サクセス学校)はカスタマーサクセスの未来を創る挑戦者を輩出する学び場です。カスタマーサクセスを追求するのに必要な知識を学び、自分で考え、実行することで、自社、顧客そして自身も成功することを目指す人のために誕生しました。経験豊富な講師陣による講義と受講生限定のコミュニティとが共鳴し、一方的な知識の習得でなく、仲間と切磋琢磨しながら行動することに価値をおいた実践者コミュニティです。
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