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顧客の9割が自己解決を望む時代に複利成長を目指す経営者が決断すべきこと

作成者: 弘子ラザヴィ|Jun 5, 2026 4:00:00 PM

SuccessGAKO(サクセス学校)では、2020年以来、「困っている顧客には人間のハイタッチで対応するのがベストだ、という認識は誤解です」と断言し、現代の顧客の大半はセルフサーブ(自己解決)を望んでいるという調査データを紹介しています。

  • まずウェブサイトを試してから電話する 57%(書籍「おもてなしの幻想」)
  • 人が対応するチャネル(電話)よりセルフサービスを好む 79%(フォレスター)

このメッセージには、受講生さんから、「こんな高いの?」「弊社のお客様は違う」など、コメントは違えど、「にわかに納得し難い」という反応が数多く寄せられてきました。そして、その都度、「思い込みは危険です」と伝えています。

そんな筆者も先日、ある最新データに目を奪われました。それは、HubSpot Japan が2026年4月に実施した「カスタマーサービスに関する意識・実態調査」のある項目です。

  • 質問 「あなたは、企業のカスタマーサービスに問い合わせる前にご自身で問題の解決を試みることはありますか?」
  • 回答 「いつもYES・48%」+「たいていYES・40%」=YES 88%
  • 事業モデル別では、B2B 85%、B2C 92%

 出所:HubSpot Japan、カスタマーサービスに関する意識・実態調査2026を発表

どうやら現在、多くの企業が気づかないうちに、日本における顧客の意識・行動様式に地殻変動が起きつつあるようです。

本稿は、HubSpot Japan が公開した調査結果に基づき、今後想定される顧客接点の変化を見据え、日本企業の経営者・事業責任者が検討すべき経営課題について筆者の考察を紹介します。

1. AI時代における顧客の意識・行動のデフォルトとは

まず、HubSpot Japan の調査結果の中で、筆者が注目したデータをご紹介します。

顧客の何割が自己解決を望むのか?

先に紹介した通り、顧客の約9割は人間と会話する前に自身で問題解決を試みているのが現実です。

逆に、自己解決を試みずに「すぐに問合せる」は3.4%。つまり、「まずハイタッチ」を希望する顧客は、ほぼ絶滅危惧種に分類されると言えるでしょう。

顧客は企業のAI対応にどれほど期待しているのか?

自己解決を試みる手段として、検索エンジン(約7割)に続き、ChatGPT等の生成AIを頼りにする顧客が4割超いるという点も時代を反映しています。

そして、現代顧客の約7割は、企業によるAI対応を「利用したい」と期待しています。皆さん自身を含め、日々利用するプロダクトのAI機能が強化されることに期待している人は多いことでしょう。

以上は、筆者が注目した、本調査結果のごく一部です。

上述データの他にも数多くのファクトデータが紹介されているオリジナルデータは、プレスリリース「HubSpot Japan、カスタマーサービスに関する意識・実態調査2026を発表」、および 詳細レポート をご参照ください。

2. デジタルタッチ「のみ」で顧客を動かすには

デジタルタッチとは、人間を介さずにテクノロジーを通じて顧客を動かし価値を届ける接点のことです。人間によるヒューマンタッチに比べ、デジタルタッチは「質が落ちる」と考える人は今も多いです。しかし、それは大きな・大きな・大きな誤解です。

質の低いデジタルタッチは存在しますが、デジタルタッチ「だから」質が低いわけではありません。むしろ、質を上げる余地が大きく存在するというべきでしょう。

顧客の思考・行動様式が地殻変動している現在、企業は「ヒューマンタッチこそがベスト」という考え方を改め、「デジタルタッチのみで顧客を動かすには」という発想で業務フローを再設計することが必須です。その際の鉄則3つを紹介します。

1) 自社の顧客を深く知る:なぜそれが出発点なのか?

効果的なデジタルタッチを設計しようとする企業ほど、顧客のことを「理解していない」ことに気付きます。顧客を動かすデジタルタッチを設計するには、顧客企業の複数あるペルソナや複雑な業務プロセスについて、時にその感情もセットで深く理解することが必須だからです。

もちろん、CSM(カスタマーサクセスマネージャー)は担当する顧客を深く理解しています。しかし、その英知は通常CSM(人)に属し、対応は属人化しがちです。それらを組織知に転換できないままCSMの退職・異動を迎えた時には、顧客の離脱リスクが表面化します。

まずは、カスタマージャーニーを言語化しましょう。分かる部分からで構いません。優先順位は、「離脱リスク」と「買増し機会」が絡むポイントです。マーケティングチームが想定する「理想」ジャーニーではなく、実際の顧客が試行錯誤する「実態」ジャーニーを把握することが大切です。

2) 個別化対応が必須:そのために何が必要か?

質の低いデジタルタッチの典型は、最大公約数の質問「のみ」対処するよう設計されたタッチです。皆さんの中にも、チャットボットでチェックしたい選択肢がない、という経験をされた方は多いでしょう。自己解決を望む現代顧客にそうした低品質の顧客接点を提供することは、地雷を踏む、つまり「ひどい」「使えない」というネガティブ印象を与えるのに等しいです。

現代のデジタルタッチは、個別化対応が必須です。顧客のプロフィール、契約プラン、ログイン記録、利用履歴、現在の表示画面などの「コンテキスト情報」を踏まえて回答することが、AI時代の必須品質です。言うは易しですが、これを実行するには、組織内のデータ統合が必要です。歴史ある大企業にとっては難題ですが、決断をおざなりにすれば難題の難易度は上がり続けます。

そして、「デジタルタッチ・ファースト」の業務フローを設計しても、それで100%問題解決することは不可能です。つまり、セルフサーブ(自己解決)できなかった顧客に対応するヒューマンタッチの再設計が必要です。ここで大切なのは、今までのヒューマンタッチでは不十分だという点です。なぜなら、その段階で期待されるのは、より個別/レアな状況把握・より複雑な問題解決・より感情に寄り添う会話スキルだからです。要は、CSMに求める必須スキルを大幅に見直す必要もあるのです。

3) AEO対策をする:しないと何が起きるのか?

現代のB2BバイヤージャーニーにAIが介在しないことはありません。既存顧客の問題解決・プロダクト活用においても同様です。

冒頭で紹介したHubSpot Japan の調査でも、既に顧客の約7割は、企業によるAI対応を「利用したい」と期待しています。これが現実です。将来はこの延長線上にあります。

余談ですが、筆者はHubSpotを活用しています。HubSpotのAIアシスタントは、開いているページも確認しながら次の操作を教えてくれます。また、LPに追加したい画像とテキストをChatGPTに伝えると、ワイヤーフレームを用意し、さらにHubSpotのデザイン編集画面にそのままコピー&ペーストすればよいHTMLコードを生成して『X行目とX行目の間にこのコードを挿入してください』と教えてくれます。非エンジニアの筆者が操作できる範囲が格段に広がっている背景には、プロダクト情報等をAEOフレンドリーにしているHubSpotの努力があるのだろうと、勝手に感謝しています。

皆さんの会社は、AEO対策にどれだけリソースを割いていますか?「やれたら良いけど手が回っていない」といった状態では、早晩痛い目にあうでしょう。既に、自社ウェブサイトの人による訪問数が桁違いに減っている企業も多いです。AEO対策を放置し、AIに認知・参照されない企業は、やがて、存在しないと同じ状態になることでしょう。

3. 「最後の手段」のハイタッチが機能するには

デジタルタッチ/AIが質問へ適切に回答してくれる現在、「それでも分からないこと」を人間に連絡してくる顧客は、一体何を期待しているのでしょう?

HubSpot Japan の調査によれば、人間に対応してほしい場面のトップは、「自分の状況に合わせた柔軟な対応が必要なとき・47%」です。そして、重視するのは、「回答の正確さ」に次いで、「自分の状況を理解した個別対応」です。

具体的には、自社の利用状況や過去のやり取りを踏まえ、「御社のビジネスモデルと今の状況なら、こう活用すべきです」「この課題にはこのプランが適しています」という、個別化されたコンサルティング的な対応。これこそがロイヤルティを高め、既存顧客の基盤を太くし、アップセルやクロスセルによる複利成長を生み出す最大の競争優位となります。

更に、AIはヒューマンタッチを補強します。AIを積極的に活用している企業の顧客接点担当者の51%が、「顧客対応の品質が向上した」と回答しています。AIは量をこなすためのツールではなく、ハイタッチの質を高める「価値向上装置」なのです。

4. 経営者が向き合うべき問は何か

AI技術の進化を受け、多くの経営者が陥る罠の1つは、「AIを導入すれば、生産性が改善し、人材コストを削減できる」という発想です。こう考える企業は注意が必要です。

生産性の改善は重要ですが、現代の経営者が検討すべきは、「売上成長の加速につながる価値創出」です。特に、成長スピードが複利で加速する、顧客基盤を太くする価値創出モデルへの転換です。複利成長とは、既存顧客の基盤が来期以降の収益エンジンとなり、成長スピードが加速し続ける状態です。これには、新たな事業モデルや組織モデルへの変革が必須です。

顧客の9割が自己解決を望む時代、収益が複利成長する事業モデルへの変革に挑む経営者ならば、最高品質のデジタルタッチを設計・提供すると同時に、拡販機会を確実に獲得するヒューマンタッチ戦略を構築する必要があります。そして、その戦略を実行する組織、とりわけヒューマンタッチを担う人材の採用・育成・評価は、大幅な見直しが必要です。

5. 複利成長に向け着手すべき経営アクションとは

以下にチェックリストをご紹介します。自社事業への適用余地について頭の体操をしてみてください。

  1. 「AI×人間」のシームレスな分業基盤の導入
    顧客は適切な場面でのAI活用には肯定的です。定型的な対応はAIに任せ、複雑な課題や感情的配慮が必要なシグナルを検知した瞬間に、スムーズに人間の担当者へ引き継げるシステム基盤を構築しましょう。

  2. 「究極の個別対応」を実現する全社CRMの統合
    顧客の過去の文脈や利用状況を瞬時に把握できなければ、個別化された提案は不可能です。セールス、マーケティング、ポストセールスの各部門で分断されているデータを統合し、全社で顧客情報を共有・活用できる環境を整備することが不可欠です。

  3. 自社情報の「AI向け」再構築(AEO対策)
    B2B顧客の54%が生成AIを使っている以上、自社のFAQや公開ドキュメントが「AIに正しく学習・参照される構造」になっているかが重要です。AIが適切に回答できるよう、情報発信のあり方を見直してください。

  4. 採用・育成基準を「人間的スキル」へ抜本シフト
    定型業務が代替される今、求められるのは「臨機応変な柔軟性」や「データに基づいた判断力」「共感力」といった人間にしかできない高度なスキルです。これらを備えた人材の採用と、高度な問題解決能力を養う人材育成への投資を検討しましょう。

  5. 評価指標(KPI)を「価値創出/収益成長型」へ転換
    対応件数や処理スピードといった「コスト重視」の指標はすでに時代遅れです。既存顧客からの価値創出を評価するため、「顧客のヘルススコア」「継続利用率」「アップセル・クロスセル貢献度」など、事業の収益成長に直結するKPIを再設計してください。

  6. 経営主導での「組織的なAI支援」の実行
    AI活用のガイドライン策定やツール費用の負担といった「組織的な支援」がある企業の担当者は、支援がない企業に比べて業務満足度が2.5倍以上も高くなっています。個人の努力に丸投げせず、経営層が環境を整備することで、現場の心理的安全性が高まり、優秀な人材の定着に繋がります。

6. 複利成長する未来への投資:何から始めますか?

AIが進化しながら日常に浸透する現在、顧客の思考・行動様式は変化し続けます。それを踏まえて既存顧客との関係を強固にできる企業が、複利成長の恩恵を受けられます。

本稿の学びを3点に凝縮します。

  • 顧客の約9割は自己解決を望んでいる。「まずハイタッチ」は既に過去の常識
  • デジタルタッチの品質向上と個別化対応は、コスト削減でなく、売上成長の手段
  • ハイタッチは"最後の手段"だからこそ、担当人材には高い能力とスキルが求められる

まずは明日、自社のポストセールス担当者がどのような環境で、どのような武器を持ち、どのように顧客と対峙しているのか、現状を棚卸しすることから始めてみてください。そこで見えた景色が、複利成長を加速させる出発点になります。

あなたの会社のデジタルタッチは、顧客を「動かせる」品質になっていますか?ぜひ社内で議論してみてください。

(以上)