SaaS商材の取扱い開始を機にカスタマーサクセスに取り組み始めた日本電気(NEC)。
製品単位の活動で成果がでたことから機運が高まり、会社全体でのカスタマーサクセス活動を企画・推進する「カスタマーサクセスCoE(Center of Excellence)グループ」が2023年に組成されました。
同グループを率いるディレクターの宮野亮氏に、NECが目指すSI事業変革の展望と、そのためのカスタマーサクセス人材投資についてお話しを伺いました。
宮野さんのインタビュー動画もぜひ併せてご覧ください。
<ゲストスピーカー>
宮野 亮 氏 日本電気(NEC)
<ナビゲーター>
弘子 ラザヴィ サクセスラボ代表
弘子ラザヴィ(以下、弘子)
宮野さんのご経歴と、現在の役割について教えてください。
宮野亮 氏(以下、宮野)
私は 2006年頃、NECの前にシスコで SaaSのウェブ会議(WebEx)のマーケティングを担当していました。当時、隣にカスタマーサクセス部隊がいたんです。それが、私のカスタマーサクセスとの初めての出会いです。その後、NECに転職しました。
NECは、2018年頃からSaaS商材の取り扱いを始め、カスタマーサクセスに取り組む必要がうまれました。いくつかの製品で取り組んで一定の成果がでた段階で、これを全社的に広めようという機運が高まりました。
そうして2023年頭に「カスタマーサクセスCoE(Center of Excellence)グループ」が全社的な推進組織に位置づけられました。
私は、同組織のディレクターとして、全社のカスタマーサクセスの立上げ支援や、プロセス、標準化、組織設計、基盤提供など、全社的な企画やオプス的な業務を担当しています。
弘子
NECは SuccessGAKO(サクセス学校)の常連さんで、これまで100名超の方が学ばれています。NECがカスタマーサクセス人材の育成に取り組まれた経緯を教えてください。
宮野
NECがカスタマーサクセスに取り組み始めた当初、社内に経験者はいませんでした。私自身も聞きかじった程度でした。
当時、社内でカスタマーサクセスの話を始めると「それって、サポートですよね」とか「セールスでしょう」とか、結構多くの勘違いがありました。何が困るって、「それはサポートでしょう」と誰かが言ったとたん、サポートとカスタマーサクセスの共通部分についての議論になってしまうんですね。
「これはまずいな」と思って。
そこで、私は社外の方とできる限り会って、カスタマーサクセスとは具体的に何をするのか勉強しました。結果、今のままでは社内の人に理解してもらうのは難しい、一定の教育プログラムがなければ説得するのは非常に難しいと思いました。
それで、人材育成プログラム作りに着手し、研修・セミナーだったり、コンテンツだったり、学ぶ人たちが集まるコミュニティーだったりを整えていきました。
サクセスラボが運営するSuccessGAKO(サクセス学校)はその中の大きな一翼です。サクセス学校で学んだ皆さんは、学んで帰ってきた時にカスタマーサクセス活動へのモチベーションがもの凄く上がっていて、行動するための共通言語ができあがっているんです。
サクセス学校という社外リソースも活用しながら、カスタマーサクセスの共通言語を習得してもらう社内プログラムを整備し運用しています。
宮野
こちら(図1)は、我々がまとめたカスタマーサクセスの教育体系プログラムです。
図1 NECのカスタマーサクセス啓発・育成計画
カスタマーサクセスは全社で取り組む必要がありますので、すべての人たちに向けた「知る」ためのコンテンツを用意しています。
縦軸は、サポーター、ルーキー、プロスタッフ、シニアスタッフと習熟度を高めながら、横軸は、知る、学ぶ・実践する、踏まえて社内コミュニティに参加する、という体系です。
具体的には、上段左から「CSMポータル」は自学自習できるサイト、「アシストガイド」はカスタマーサクセスの立上げ準備をガイド化したもの、そして、学び・実践する中で必要な「カスタマーサクセス・ハンドブック」です。
中でも大事なのが「研修・セミナー」です。すべての人向けの「eラーニング」でカスタマーサクセスに関する最低限の基礎を学びます。その後、サクセス学校の講座に参加し、他社のサクセス仲間との交流も含め、カスタマーサクセスについて習得してもらう。
最期の「社内コミュニティ」は実践しているメンバーの集まりです。社内コミュニティに参加して相乗効果を高めていただきます。
こうした、社内の共通言語を整え実際に実務に役立てるための教育体系を作って今に至ります。
弘子
これだけ素晴らしい人材育成プランを作ってカスタマーサクセスを推進されているNECが、目指しているゴール、そしてその裏側にある課題意識について教えてくださいますか?
宮野
はい。まず、プロダクト毎のカスタマーサクセスはそれなりに浸透していて、取り組みの成果も上がり始めています。
一方、カスタマーサクセスで先行する多くのSaaSベンダーとの違いとして、システムインテグレーター、つまりSI事業が、我々のビジネスの中で非常に大きな中核を占めているという点があります。
SI事業は、お客様にある1つの製品を提供することに留まらず、様々な製品を組み合わせたり、時にはゼロから開発してお客様に納めるビジネスです。そうしたSI事業でカスタマーサクセスを推進することが我々の大きな課題であり、人材育成に取り組む目的です。
弘子
SI事業でカスタマーサクセスを推進すると聞くと、「え、それできるの?」って皆さん思います。チャレンジされる背景やきっかけは何でしたか?
宮野
単品のプロダクトやサービスでカスタマーサクセスを推進し、リテンション率を上げ、アップセルを増やしても、実はNEC全体の事業インパクトはあまり大きくないんです。もちろん、それはしなければいけないことですけれど。
お客様が我々に求めているのは、システム全体を通じて価値を出してほしい、伴走してほしいということです。
一方、我々としてそこは受託事業です。つまり、請負ったビジネスの中で利益を出すために、お客様に価値を提供しつつ自分たちの効率も追求するというビジネスモデル。それは、お客さまに伴走し続けるといったカタマーサクセスのやり方とは違う形で対峙してきました。
ただ、多くのSaaSベンダーがお客様に寄り添い続ける中、そうした会社と競合するようになり、我々のビジネスモデル自体を変革しなければならない、という想いが、私だけではなく、会社全体として強くなっています。
この課題を解決するために、システムインテグレーターからバリュードライバー、お客様に価値を提供し続ける、価値をドライブし続ける存在になろうと決め、「ブルーステラ」というブランドを今年発表しました。このブルーステラという、SI事業の新しいビジネスモデルへ変革する中でカスタマーサクセスを応用していきたいと考えています。
弘子
素晴らしいですね。システムインテグレーション(SI)事業のビジネスモデルを進化させようとしている、ということですね。
宮野
はい、そうです。会社全体で取り組んでいます。
弘子
そうすることでNECの売上が上がり、お客様が手にする価値も上がるということですね。
宮野
はい、そうです。
宮野
ここで、BluStellar(ブルーステラ;図2)について説明させてもらいます。NECは従来、単発型のSI、要は品物を提供するところからの脱却を、ブルーステラという新しいブランドと共に全社的に取り組んでいます。
図2 BlueStellar(ブルーステラ)とは
システムインテグレーターから、バリュードライバーになるべく、今までの一品ものの提供から、一定のシナリオやオファリングメニューという形で、さまざまな製品を組み合わせつつも一定の型をもってお客様に価値を提供するモデルへの変革にチャレンジ中です。
このモデルで継続的に顧客価値を創出し続けるには、今までの納品後の取り組み方、つまり保守や運用でお客様と関わるのではなく、カスタマーサクセスの概念を応用した取り組み方にする必要があります。
つまり、我々はバリュードライバーへ変革するための1つの要素として、カスタマーサクセスを取り入れようと考えています。
弘子
ここに至るまで、宮野さんは様々なご経験をされたと思います。特に大企業でカスタマーサクセスを推進される方は、皆さん苦労されているようです。宮野さんにとって、どの辺りが難しかったとか、あるいは大企業の皆さんに何かアドバイスはありますか?
宮野
そうですね。私がNECでカスタマーサクセスに取り組み始めたのは5年くらい前です。
2018年~2019年頃の当時、カスタマーサクセスについては、経営幹部も含めて全く知られていない状況でした。そんな中で取り組もうとすると、反対する人や無関心の人がたくさんいます。
ただ、大企業ならではですけれど、関心を持ってくださる方も一定数現れるんですね。 これが大企業の良いところです。そこで、まず私が取り組んだのは仲間づくりです、仲間探しと言ったらいいかな。
私ども、グループ会社含めて 110,000人いるんですけども、探しまくったら仲間が 10人いました。10人が「何らか取り組まないとビジネスが成長しないんじゃないか」と考えてくれていました。そこで、まずその10人で集まって話しました。それぞれが悩みを打ち明けながら、みんなに理解されない点を話す中で、お互いの誤解にも気づきました。
実は、私自分自身もカスタマーサクセスを誤解していました。私はセールスマーケ出身です。特にマーケティングはリード創出が仕事ですので、とにかくお客さんをたくさん呼ぶ。千人呼んだらそのうち10人が契約すればいい、という考え方でした。
一方、カスタマーサクセスの凄い所は、どのSaaSベンダーさんも、リテンション率が98%とか99%という高水準で。これには衝撃を受けました。「自分が今まで経験したことをベースにやっては駄目だ」と思ってですね。
皆さんと話し合いながら、次にやったのは 小さくても実績を作ることです。成功例を見せないと誰も納得しません。
一例ですが、ある製品でカスタマーサクセスに取り組みました。リテンション率が65%なのに、皆さん課題に気付かないまま、新規を取ることにリソースを費やしていました。その製品でカスタマーサクセスに取り組んだところ、リテンション率が20%改善したんです。それで初めて、バケツの穴から売上がこぼれていたことを皆さん実感でき、しかもそれを止める方法があるんだと気付いた。
そういった小さい実績作り1つ1つに取り組みました。正直、心折れそうな時もありますけど、地道にカスタマーサクセスで実績を作り発信し続けました。今ようやく、NECの中で30製品以上が取り組んでいます。過去数年かけてそこまで伸ばせました。
弘子
素晴らしいですね。
弘子
そうした活動を地道に続けられる中、社内からポジティブな反応だったり、お客様から「なんか最近のNECさん今までと違うじゃない!」といったポジティブな反応があったのでは?
宮野
ありますね。特にカスタマーサクセスマネージャー(CSM)を担当したメンバーがお客様から感謝されて帰ってくるんです、「〇〇さんがいたから本当にうまく導入できたよ」と。
弊社のCSMは、サポート出身か営業出身が多いです。サポート出身のメンバーはトラブルシューティング対応をしてきたので、お客様から怒られはしても褒められた経験が少ない。営業出身のメンバーも、システム納品後は他のお客さんのところへ行かなきゃならないので、納品後のお客様が喜ぶ姿にあまり接しない。
そんな彼らが、CSMとして担当したお客様から「〇〇さんのお陰でこのソリューションが社内で浸透し会社が凄く変われたよ」と実際に言われ感謝される。そんな経験をしたメンバーや、それを聞いた私自身も、カスタマーサクセスを推進するモチベーションが凄く上がります。
弘子
いい話ですね。そうしたポジティブな反応があり、そしてより大きな、SI事業を変革するというゴールを目指している現在、「カスタマーサクセスを実践すると売上が上がる」という手応えがあると周囲の見方も俄然変わると思うんですけど、その辺いかがですか?
宮野
プロダクト単位やSaaSサービスのカスタマーサクセスに関しては、会社全体でみると規模は小さいですが、確かに実績が出ており、経営幹部も理解してくれています。それで、全社的に推進しようとしています。
SI事業を含む会社全体に対してどう適用するかは、まだ四苦八苦中で、試行錯誤を繰り返さなければいけない段階です。自分自身はモチベーション高くワクワクして取り組んでいますけれど、確かな実績が出るのはこれからですね。頑張らなければと思っています。
弘子
いろいろお話しを伺い、今後、進捗を聞くことがとても楽しみになりました。最後に、同じ境遇でカスタマーサクセスを頑張っていらっしゃる仲間に向けてエールをお願いします。
宮野
大企業の中でカスタマーサス推進しようという方やSaaS以外のベンダーさんは、かなり苦労されてると思います。そうした方たちに、ぜひ諦めずにチャレンジしてほしいと願っていて、今日こうしてお話しました。
大企業によくあることですけど、皆さん非常に多くの成功体験を持たれています。そうした所がプラスになる面もありますし、ちょっと障害になる面もあると思っていて。
私自身、結構、心折れそうになることもあるんですけど、そういった時に大企業で頑張っている仲間と話すと、凄くモチベーションが上がり、参考になる話も多く聞けます。ですので、ぜひ何かイベントなどで見かけたら声をかけていただいて、情報交換できればと思っています。
ぜひ、一緒に取り組んでいきましょう!