皆さんは、「スケールするカスタマーサクセス」と聞いて何を連想しますか?
よくある回答は「テックタッチ」や「1:多 の施策」ですが、それはとても危険な誤解です。
そう聞いて「え?」っと思った方、以下にその理由を紐解きますので、ぜひ最後までご覧ください。
「スケールするカスタマーサクセス」の定義
SuccessGAKO(サクセス学校)では、スケールするカスタマーサクセスを次のように定義します。
“スケールするカスタマーサクセスとは、人に存在しないアプローチを取り入れることで、すべてのカスタマーを成功に導き、自社の事業成長が加速するカスタマーサクセス”
ポイントは3つです。具体的に見ていきましょう。
ポイント 1)人の数に依存しない
1つ目は、人、つまりカスタマーサクセスマネージャー(CSM)の数に依存しないという点です。
拙著『カスタマーサクセスとは何か?』(英治出版、2019年)で次の等式を紹介しました。
<正> 成功したカスタマー数 = カスタマー数 × オンボーディング率 × アダプション率
<誤> 成功したカスタマー数 = CSMの数 × CSM1人あたりのサクセス生産性
下段は等式としては間違っていません。実際、この等式を元にCSMの人数を増やし続ける企業も多いです。
しかし、それはカスタマーサクセスの実務としては間違いです。なぜなら、この等式を前提にカスタマーサクセスを進める限り、カスタマーの数の増加に伴ってCSMを採用し続けなければならず、それは持続可能ではないし、新人が増えれば生産性も落ちるからです。
更に重要なのは、この等式だと「CSM1人あたりのサクセス生産性」、つまりベンダー側の業務効率に目がいき、本来注目すべきカスタマーの状態、つまり「オンボーディングは上手くいっているのか?」「アダプションの課題は何か?」に注目がいかなくなる点です。
カスタマーの視点が不在なまま効率化を追求しても上手くいくはずありません。
「スケールするカスタマーサクセス」と聞いて、テックタッチなどの効率化につながる施策がぱっと頭に浮かぶのは、下段の等式が無意識にあるためです。
大切なのは、人の生産性や業務効率を上げることよりも、オンボーディング率やアダプション率を上げることです。
目的は「成功したカスタマーを増やすこと」です。そのために必要なことをより効率的にできればそれは良いことですが、CSMの生産性から発想するのは間違いです。この点を再認識し、上段の等式へと発想を切り替えることが大切です。
ポイント 2)すべてのカスタマーを成功に導く
2つ目は、すべてのカスタマーを成功へ導くという点です。
売上金額や会社規模によらず、購入されたすべてのカスタマーが、皆さんのプロダクトやサービスを通して期待したビジネス成果を出すこと、それが「スケールするカスタマーサクセス」のゴールです。
重要なのは、ハイタッチできるカスタマーだけでなく、文字通り「すべてのカスタマー」ということ、加えて、チャーンを防ぐのでなく「成功に導く」ことです。
現実は、「2:8の法則(上位2割のカスタマーが売上の8割を占める)」を基に、上位2割の太客へ担当CSMを割り当ててハイタッチでケアしている会社はとても多いです。
それ自体は間違いではありません。実際、事業の立上げ期や、カスタマーサクセスチーム立ち上げ直後は、ハイタッチでのやり取りからカスタマーの理解が進み、試行錯誤をして改善が進むことも多いです。
しかし、それは「スケールするカスタマーサクセス」ではありません。
繰り返します。「スケールするカスタマーサクセス」の目標は、契約してくださったすべてのお客さまが自社のプロダクトやサービスを使って期待したビジネス成果を手にしてもらうことです。そして、そうなることに責任をもってカスタマーサクセスを実践することです。
理想論ではありません、本気です。
本気でこの目標を目指すとなると、ポイント1が必須だと気付きます。まず人が介在しないアプローチでタッチし、人的リソースは必要なところに効果的に投入することで、成功するカスタマーの数を最大化していく。それが「スケールするカスタマーサクセス」です。
そして、これを正しく実践すれば、結果は自社事業の成長として現れます。それがポイント3です。
ポイント 3)自社事業の収益成長に貢献する
3つ目は、自社事業の収益成長に貢献するという点です。
そもそもカスタマーサクセスとは、「カスタマーが自社のプロダクトやサービスを利活用して期待するビジネス成果(成功)を手にできるようケアすることで、カスタマーから得る生涯価値(CLTV)を最大化するという考え方であり行動」です。
これは、スケールする・しないに限りません。
それを、人的リソースがボトルネックにならない方法で、すべてのカスタマーに対し正しく実行できたなら、CLTVは最大化し、事業成長に貢献することは間違いなさそうです。
なお、SuccessGAKOの基礎コース「認定カスタマーサクセス」では、CLTV最大化という目的を「エンゲージメント向上」「リスク管理」「オポチュニティ探索」に3分割し、最後の「オポチュニティ探索」を目的とする活動を「アダプション管理」と称して具体的な手法を解説しています。
下図はアダプション管理の世界観です。

図の左下にある「現行契約を継続」は、リスク管理ができた状態です。ここを起点に上方向や右方向を追求するのがアダプション管理です。カスタマーサクセスの醍醐味を味わえる領域です。
そして、ポイント2の「チャーン防止ではなく成功に導くこと」とは、すべてのカスタマーを対象にアダプション管理を適切に実行することを意味します。
また、カスタマーサクセスのチーム責任者を対象とした「実践カスタマーサクセス」では、カスタマーサクセスチーム運営の秘訣は三位一体のサクセス、すなわち「顧客、従業員、会社のサクセスすべてが両立すること」だと伝えています。
CSMの生産性ばかり追求して従業員が疲弊したり、ケアされないカスタマーが多数放置されたりすることを是としない「スケールするカスタマーサクセス」は、正にチーム運営の理想形なのです。
「スケールするカスタマーサクセス」のBefore & After
上述のポイント3点を図示したのが下の図です。

左手はスケールする前です。
縦軸を「顧客の規模」、横軸を「顧客の課題の複雑性」とした時、規模が大きいカスタマーに担当CSMを割り当て、簡単な課題もすべてハイタッチでケアしている状態です。この時、担当CSMがつかないカスタマーは必要なタッチも不足しがちなことが多いです。
右手はスケールするカスタマーサクセスです。
デジタルファースト、つまり人が介在しないアプローチ(非ヒューマンタッチ)の活用を基本とし、必要なところに絞って人的リソースを使います。その優先順位は、顧客の規模に加え課題の複雑性を加味します。そうすることで、太客を含むすべてのカスタマーを効果的にタッチできている状態です。
右手を実践するには、非ヒューマンタッチの有効性と再現性を高めることが肝要です。
画一的メールを一斉配信するようなタッチではなく、カスタマーの状況や体験、感情(センチメント)に応じて個別化、最適化されたタッチが必須です。
魔法の杖はなく、試行錯誤で学習を重ねてタッチの有効性を確かめ、再現性ある個別化アプローチへ落とし込んでいきます。
非ヒューマンタッチが洗練されていくと、「スケールするカスタマーサクセス」の成熟度は高まります。なお、スケールするカスタマーサクセスの成熟度については後述します。
「スケールするカスタマーサクセス」が重要な理由
スケールするカスタマーサクセスの定義をきちんと理解したなら、その重要性を理解することはそれほど難しくありません。
カスタマーサクセスに取り組み始め、業務プロセスを軌道にのせて安心し、数年たっても同じやり方を続けてスケールさせられないままでいると、早晩、次の問題にぶつかります。
1つ目は、ヒューマンリソース不足に陥る、つまり量の問題です。
カスタマーの増加に伴いCSMを増やす必要がありますが、採用には時間がかかります。特に、能力や経験値の高い人材は取り合いです。また、プロダクトが複雑な場合、新任者がプロダクト知識を習得するのに1年近くかかるケースも少なくありません。
こうして、CSMの人数(不足)がカスタマーサクセスの有効性を上げるボトルネックになります。
2つ目は、属人的なアプローチに陥る、つまり質の問題です。
ハイタッチに依存したカスタマーサクセスの有効性は、一見高そうですが、実はCSM個々人の力量に依存するところが少なくありません。実際、カスタマーの抱える課題や状態が同じでも、成功へ導ける確度は担当CSMによって幅があります。新任者が増えてくると、さらにその幅が拡幅します。
3つ目は、ケアされないカスタマーが増える、つまりカバー範囲の問題です。
1つ目と2つ目の問題を抱えたままカスタマーが増えると、結果として3つ目の問題を招きます。
まず、適切にケアすれば防げたチャーンが増え始めます。チャーンせずに利用し続けてくれるカスタマーも、期待したビジネス成果が手にできなければ、やがて離れていきます。適切にケアしていれば本当は気づくことのできたアップサイド(拡販機会)も、知るすべさえありません。
いかがでしょうか?
皆さんの中で「耳が痛いです」という方は少なくないと思います。こうした問題が手遅れの状態になる前に、「スケールするカスタマーサクセス」を理解して第1歩を踏み出すことが重要です。
スケールするカスタマーサクセスの成熟度
先述した「スケールするカスタマーサクセスの成熟度」について説明します。

図の横軸は、左から「スケール前」「スケール初期」「中期」「後期」、縦軸は「データ起点」「デジタルファースト」「個別化アプローチ」「カバー範囲」です。
上から見ていきましょう。まず「データ起点」です。
スケールする前でも何らかのデータは存在します。しかし大抵は、部門、チーム、個人単位でバラバラに管理されていて、点在するデータはほぼつながっていません。
スケール初期では、バラバラだったデータが整理されて必要なデータが組織横断でつながり、組織内で可視化されています。欲しいデータに誰でもアクセスでき、レポートをとれる状態です。
中期になると、必要なデータをリアルタイムに利用でき、そこからインサイトを抽出して必要なアクションを取れます。カスタマーサクセス活動の自動化が進んでいる状態です。
後期では、データに独自アルゴリズムを適用してカスタマーの行動がある程度予測でき、より能動的(プロアクティブ)なカスタマーサクセス活動が可能です。適切な施策を先手でうてる状態です。
次に「デジタルファースト」と「個別化アプローチ」を一緒に見ていきましょう。
スケール前は、ヒューマンタッチが主なので「デジタルファースト」ではありません。タッチの大半は、良く言うと個別カスタマイズ、実態はCSMの力量に依存した属人的アプローチです。
スケール初期は、非ヒューマンタッチを取り入れていますが、大半は画一的なアプローチに留まります。例えば、カスタマーの状況に依らないメルマガを一斉配信したり、セルフサーブのWebサイトやイベント情報を全カスタマーへ案内するといったものです。
中期になると、非ヒューマンタッチがヒューマンタッチと融合して展開されます。カスタマーの状態を示すリアルタイムのデータをトリガーに個別化された施策が自動展開されます。CSMほかヒューマンタッチはすべてデータが起点となって展開される状態です。
後期では、中期の非ヒューマンとヒューマンの融合がより洗練され、更にデータサイエンスが活用されて、データをトリガーにした予測的施策が自動展開されます。またセルフサーブも最大活用されています。
カスタマーがより快適な設定、利用、価値を体感でき、そのために必要なものが揃っていて、必要な時に希望する方法でアクセスできる状態です。
究極は、プロダクト体験がカスタマーの状態に合わせて最適化、個別化されます。
最後に「カバー範囲」です。
上部3段の結果、恐らくこれぐらいのカスタマーに効果的にタッチでき、成功まで導くことができるだろう、という目安です。
スケール前は、ハイタッチした顧客しかケアできず、カバー範囲は非常に限定的です。
スケール初期は半分以下、中期では半分以上、最終的にはほぼすべてのカスタマーをケアして成功へ導くことを目指します。
以上、スケールするカスタマーサクセスの成熟度をご紹介しました。
皆さんの現状はどのあたりでしょうか?
「スケール前」でも大丈夫です。誰もがそこからスタートします。大切なのは、スケールする状態の目標を早めに具体化して、 1歩1歩できるところから前に進み始めることです。
最後に
ここまで読んでくださり有難うございます。
率直な感想として「理想論だ」と思われる方もいるでしょう。そう思う気持ちは理解します。でも諦めてはいけません。決して簡単なことではありませんが、これは実現可能な目指す姿です。
SuccessGAKOの「スケールCS」でメイン講師をつとめるシスコの小泉雅人氏は、10年近くこのありたい姿を目指して日々奮闘し、確実に成熟度を上げてきました。
最後に、小泉先生のコメントをご紹介します。
「我々もまだ道半ばですが、この最終目標があるからこそ、本質を見失わずに毎日一歩一歩進んでいます。決して綺麗ごとではなく、実現可能だと思っています。スケールするカスタマーサクセスこそ、カスタマーサクセスの本来の価値が発揮されるものです。私が日頃から『スケールしないカスタマーサクセスはカスタマーサクセスではない』という所以です」
我こそは、スケールするカスタマーサクセスを目指すぞ!という方、ぜひ一緒にスケールCSの道を追求しましょう!
カスタマーサクセスに挑戦する人が、知恵と勇気と仲間を手にする実践者コミュニティ「SuccessGAKO」
SuccessGAKO(サクセス学校)はカスタマーサクセスの未来を創る挑戦者を輩出する学び場です。カスタマーサクセスを追求するのに必要な知識を学び、自分で考え、実行することで、自社、顧客そして自身も成功することを目指す人のために誕生しました。経験豊富な講師陣による講義と受講生限定のコミュニティとが共鳴し、一方的な知識の習得でなく、仲間と切磋琢磨しながら行動することに価値をおいた実践者コミュニティです。
『スケールCS』3期
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