日本にいれば必ず1度は口にする飲料でお馴染みのサントリー。同社はカスタマーサクセスを導入・推進したことで、従来の自販機ビジネスを、より付加価値の高いビジネスモデルをもつ成長ビジネスへと変換させることに成功しました。
本稿では、同社がカスタマーサクセスを導入した経緯、その成果と今後の展望について、経営の強いリーダーシップのもと変革をリードされてきた井上由美子さんにお話し伺った内容を紹介します。
井上さんのインタビュー動画もぜひ併せてご覧ください。
<ゲストスピーカー>
井上 由美子 氏 サントリーホールディングス
<ナビゲーター>
弘子 ラザヴィ サクセスラボ代表
弘子ラザヴィ(以下、弘子)
井上さんの簡単なご経歴と、現在の役割について教えてください。
井上由美子 氏(以下、井上)
サントリーホールディングス、デジタルマーケティング部の井上由美子と申します。
私はずっと営業部署を経験してきました。具体的には、スーパーやコンビニチェーンへ営業する広域営業本部、飲食店へ提案するグルメ推進部、営業戦略をたてる営業推進部です。そして、数年前に現在のデジタルマーケティング部に赴任しました。
デジタルマーケティング部では、サントリープラスを4年ほど担当しました。他には「サントリー先輩」という就職活動を応援するサービス、グループ会社の「プロント」という飲食店のサポートなど、いろいろなプロジェクトを経験しました。
そうした経験を経て、現在は人材育成を担当しています。
弘子
井上さんがカスタマーサクセスに取り組まれた「サントリープラス」というサービスの概要と、その経緯について教えてください。
井上
はい。サントリープラスは、健康経営を支援するアプリです。
サントリーの自動販売機を置いてくださる企業の皆様に、無料で使えるアプリとして提供しています。つまり、サントリープラスでマネタイズしているサービスではない、という点が大きな特徴です。
サントリープラスというアプリは、健康経営を推進される企業の担当者に向けて、彼らの健康経営を支援するアプリです。要は、アプリを導入していただいてからが勝負、つまりリテンションモデルのサービスです。サントリーの強い営業に、カスタマーサクセスという考え方を取り入れることで、ビジネスモデルを変革したいという思いで始めたサービスです。
経緯としては、私達は、自販機ビジネスが今後も成長するか分からない、要は事業の危機というのを感じておりました。
どうしたら本当にお客様のために良いことをして、「だったらサントリーの自販機を置きたいな」と思っていただけるのかと考えた時に、その企業にとっての成功や嬉しいことをしてさしあげる必要があると考えました。
それで、このカスタマーサクセスの考え方の導入が必要だと思ったのです。
弘子
「サントリーのカスタマーサクセス」と聞いて、多くの人は「一体、何をしているの?」と疑問をもつと思います。サントリーのカスタマーサクセスについて教えてください。
井上
はい。サントリーは100年の歴史があるモノ作りメーカーです。当然、モノ作りには誇りを持っています。しかし、会社として、それだけで将来も大丈夫かという危機感がありました。将来を見据えて、良いサービスを提供している会社にならなくてはいけないと考えました。
踏まえて自販機ビジネスを考えた結果、ただ自販機を置くだけではなく、サービスの付加価値でしっかり営業していく、それを全国に広めていこう、という考え方に至りました。本当に最近のことです。
そして、「サービスでXXの利益を目指す」という数字目標を事業として掲げるようになりました。結果、自販機ビジネスのど真ん中にサントリープラスが位置づくようになりました。ここ数年の大きな変化です。
弘子
なるほど。これまでの「モノを売る」という自販機ビジネスに、より付加価値の高いサービスを統合してお客様に提供する。つまり、新しい価値創造型のビジネスモデルを確立できた、そこがサントリーのカスタマーサクセスとして評価されたのですね。
井上
はい、その通りです。
弘子
サントリープラスのカスタマーサクセス活動について、具体的に教えてもらえますか?
井上
まず、カスタマーサクセスという考え方の重要性を教えてくれて社内で展開してくれたのは、サントリーホールディングスの室元常務です。
室元常務は「営業主体のビジネスを革新しなければいけない」と考え、相対する部署に対してその考え方を説明し、何度も議論してくださいました。結果、事業部門も「カスタマーサクセスの考え方が必要だ」と理解してくれました。そうして立ち上げたのが2020年。本当に、何もない状態でした。
そこから何をしたかというと、とにかく顧客理解から始めました。
企業担当者の課題は何なのか、彼らの成功は何なのか。私達自身が健康経営のことを知りませんでしたので、まず現場に行き、そこで学ぶということから始めました。
具体的には、イベントを開催し、汗水たらしてアプリを導入していただくことを一日中やりました。お客様の会社の工場にまで行き、アプリ導入のイベントを実施したり。本当にそうした活動をずっと行い続けました。
弘子
それはユーザーのオンボーディングですか?
井上
はい、アプリを導入して頂くための説明会、つまりオンボーディングです。オンボーディングの一環で、汗水垂らすことをしていたんです。営業メンバーと一緒に出向いて実施しました。
そこで気づいたのが、例えば「こんなややこしかったらダウンロードできないよ」とか、「工場に勤務してるんだから携帯持ってないけど」などのユーザーの状況です。私たちはそういうところから分かっていなかったのです。
そこで、そうしたユーザーのお声を収集してアプリの開発部門に戻すことで、アプリをブラッシュアップしていきました。
一方、顧客企業の担当者、主に人事の方でしたが、健康経営の担当者にもお悩みを聞きました。踏まえて、何をしたらいいだろうと考えた、それがまず一番初めにやったことでした。
その後、導入企業数が増えるとハイタッチだけでは対応しきれないと学んで分かっていたので、次はテックタッチとしてメルマガ配信ですとか、ロータッチとして説明会を開いたりですとか。さらに、ファンマーケティングのような取り組みも行いました。
弘子
新しいサービスを組み込んだ自販機ビジネスのモデルが 1つできました。今は、このモデルをさらに違うビジネスにも横展開されようとしていると伺いました。詳しく教えてください。
井上
はい。今年3月に、デジタルマーケティング部はサントリープラスを卒業しました。なぜ卒業できたかというと、相対する事業部の方がカスタマーサクセスを完全に理解し、自走することが実現できたためです。この状態を目指して今まで一緒に伴走しながら成功を目指してきました私達にとって、これはとても嬉しいニュースでした。
サントリープラスで学んだことは財産です。デジタルマーケティングとしてこの考え方を横展開していくことが組織の知見やスキルに繋がると思い、自販機の他のサービスでもこの考え方を展開できないかと考えました。
結果、「社長のおごり自販機」というサービスへカスタマーサクセスを導入するために今後一緒に活動していくことが先日決まりました。これから私も一緒に進めていく予定です。
弘子
井上さんは、サクセス学校が2020年に始めた講座の1期生です。サクセス学校での学びはどのように活きましたか?
井上
まず、サクセス学校には心から感謝をしております。
これがなかったら今の私もないですし、サントリープラスというサービスでここまでカスタマーサクセスを広げることはできなかったと思います。ですので、学びというか、すべてがそこから始まったと思っております。
学びとしては、カスタマーサクセスについて、書籍でしか知らなかった自分に一から分かりやすく教えてくださいました。そうして学んだ知見をためたことで、そこから実践に移すことができました。
私が凄く有難かったのは、弘子さんはじめ先生方が沢山いらしたのに加え、カスタマーサクセスの実践経験がある仲間と討議グループで話し合うことができたことです。彼らと話すと、私が今困っていることに対して直ぐに打ち手を返してくださる。明日のミーティングではそれを使うということを実際できました。
当時はコロナ禍でしたので、講座修了後もオンラインで定期的にミーティングをしたり、それこそ飲み会をしたりもしました。
実は、私にとってその方々の成長が目から鱗でした。
具体的には、もの凄く先を行く実践をされている仲間がいました。カスタマーサクセス人材を実際に採用されるということで、どういったスキルが必要かなどを体系的に整理されたものを私に教えてくださいました。
また、ある仲間は、自社で何をしているのかについて、弊社サントリープラスのメンバーに対して実際にミーティングをひらいて教えてくださったりもしたんです。そこで伺った話が、正にそのまま生きる状況でした。
こうした仲間と繋がることができ、彼らの前向きに推進する力が刺激になりました。おかげで、私自身、正直不安はありましたが、「いちメーカーだけれども、サントリーらしくできることが何かあるんじゃないか」と前に進むことができたと思っています。
弘子
サントリーのような、日本を代表するモノ作り会社で変革が成功する裏には、必ずゴッドファーザーのようなリーダーシップが存在します。どなたがゴッドファーザーになってくれたのでしょう?
井上
会社の中でも私の中でもゴッドファーザーなのが、常務の室元です。
当時、サクセス学校に通うことを勧めてくれたのが室元で、サントリープラスにカスタマーサクセスを導入するのが良いと、事業と交渉してくれたのも室元です。
室元は、全社の課題や、自販機の課題を特定し、サントリープラスがどの方向に向かったらいいかという、当時の私にはなかった視座の高さで物事を見ていました。そして、カスタマーサクセスという新しい情報を入手し最適化してくれました。
今では、私達だけでなく相対する部署も、営業の皆さんまでもがカスタマーサクセスのことを理解している。そのきっかけを作ってくれたのが室元です。
弘子
素晴らしいですね。ちなみに室元さん、井上さんの成果に対して何かおっしゃいました?
井上
私が課長に昇進した時、メチャクチャ喜んでくれました。実は、内示が出た次の瞬間にメールくれたのが室元です。「お祝いをしたいです。誰と飲みたいですか?」って言ってくれて。お父さんのように喜んでくれました。
弘子
いい話ですね。そう、井上さんは、カスタマーサクセスで成果を出されて昇進されたんですよね。素晴らしいですね。
弘子
井上さんは昇進されて、新しい責務・役割が加わりました。今後1年ぐらい先にどのような状態にしていきたい、という抱負を教えてもらえますか?
井上
はい。今後は、顧客理解から始めて、ビジネスをグロースする状態にしていくことを目指したいと思っています。
そこのためには、やはり人が育つことが大切です。私自身も先輩方に育てていただいて今があるので、その恩返しをしたいと思っています。
弘子
井上さんのミッションは人材育成でしたね。具体的に何をしたいという目標はありますか?
井上
メインは部署の人材育成です。ただ、部署に閉じず、みんなで同じ目線を持ってビジネスを変革していく、サントリーを変えていくという思想やスキルを持つ人材を育てていきたいと思っています。
私が大切だと思うのは、人は元気でないと仕事を思うようにできなかったり、モチベーションが上がっていないと挑戦する気持ちになれません。ですので、スキルを上げる仕組みを整えることもしますが、それよりも、みんなが本当に挑戦したい、変革をしたいと思えるような風土を作っていきたいと考えています。
弘子
最後に、カスタマーサクセス頑張ろうと思っている方にメッセージをお願いします。
井上
はい。カスタマーサクセスを今から頑張って勉強しようとされている皆さん。
数年前、私は何もわからずに畑を耕している状態から始まり、今に至ります。不安もたくさんあると思いますが、一歩踏み出すことによって景色は必ず変わります。皆さんの挑戦を応援しています。