金融業界でカスタマーサクセスを本格推進する日本企業はまだ希少 ―― そうした中、企業年金とDXを融合させた独自のビジネスモデルで急成長を遂げる株式会社ベター・プレイスの事例は、1つの答えを示しています。
同社の執行役員でカスタマーサクセス組織をゼロから立ち上げた内谷尚子氏は、SuccessGAKO(サクセス学校)主催「実践カスタマーサクセス」を受講後、同組織を10名から33名へ拡張。「加入率」という独自KPIを軸に、ハイタッチからテックタッチ、リモート操作代行まで仕組み化を推進し、ストック収益(既存客からの継続収益)を売上の約6割まで伸長させました。
本稿は、カスタマーサクセスの実践を通じて自社を変え、顧客に大きな価値をもたらした挑戦者を表彰する『カーディ賞(Cardi Award)2025』に内谷氏がエントリーした発表の全容を、一部編集してお届けします。
1.本記事のポイント
- 事業の急拡大に合わせて3年間でカスタマーサクセス組織の人員を10名から33名へ増強し、成長を止めない体制を築いた事例
- 法人規模やリテラシーに応じ、ハイタッチからテックタッチ、リモート操作代行までを使い分ける、人手に頼らない「仕組み化」を追求
- 顧客の成功を「加入率」と定義し、事業貢献に直結する最重要KPIとして設定
- アンケートや問い合わせ分析の自動化により、現場で得た顧客の声をプロダクト改善につなげる仕組みと文化を醸成し、アプリ開発やコンテンツ制作にも展開
- カスタマーサクセス活動を推進することで、導入後のストック収入を全社売上の約6割まで成長させ、会社の収益基盤の安定化に貢献
2.発表全容
ご挨拶と自己紹介
皆さん、こんばんは。ベター・プレイスの内谷と申します。
私は、2022年にSuccessGAKO(サクセス学校)の「実践カスタマーサクセス」を受講しました。会社では、カスタマーサクセスの責任者として、これまでカスタマーサクセス組織をゼロから立ち上げて作ってきました。

今日の発表を準備する過程で、自分がこれまでやってきたことを色々と振り返りました。結構、涙が出るほど大変だったなあという思いがこみ上げました。この発表後、同じ苦労をされている皆さんと情報交換できればと思っておりますので、よろしくお願いします。
発表内容の要点
私がサクセス学校に参加した2022年は、事業が急速に拡大し始めた時期でした。

顧客が急増し、顧客層も変化する中で、戦略と戦術を十分描ききれていない。そんな状況で、事業戦略に即したカスタマーサクセスの組織体制を構築することが急務な状況でした。
当時のカスタマーサクセス組織は約10名。私を含め、カスタマーサクセスの実務経験者がほぼいない状況でしたので、標準化や仕組み化の意識が今より低かったと記憶しています。
また、当時はハイタッチ施策が中心でしたので、事業拡大に向けてリソースとタレントが圧倒的に不足していました。加えて、顧客の声やデータ取得の仕組みも整っていませんでした。
そんな中でサクセス学校の講座を受講した私が実行したのは主に3点です;
1)カスタマーサクセス組織内で顧客体験の全体設計をできるような組織体制を構築しました。
2)セグメント毎のコミュニケーションを設計し実行しました。
3)プロダクトを改善する企画と実行に向け、顧客の声を反映する仕組みを構築しました。
結果はスライド右手の「現在」です。
まず、顧客体験を全体設計できるカスタマーサクセスの組織体制を構築できました。
セグメント毎のコミュニケーション設計についても、サポートデスク、ビジュアルIVR、CSサイト、リモートデスクトップなど、CRMも活用しながら、適正かつ効率的な顧客体験(CX)を実現できてきています。また、更なる効率化への土台も構築できてきていると実感しています。
顧客の声を反映する仕組み化については、アンケートやインタビューを強化し、問い合わせ分析を開発部隊に共有して、すべてのプロダクトやサービス開発にカスタマーサクセスの意見が反映されるような文化が醸成され、CS企画の開発が多数実装されている状況です。

当社の事業は「はぐくみ企業年金」という企業年金とDXを組み合わせた事業です。
つまり、当社が提供するシステムと企業年金という2つのプロダクトがあります。そんな、企業年金基金から業務委託という形で推進している私たちの事業が、年金基金自体のサービス内容を変革させることもでき始めていることを実感しています。
事業概要
当社の事業内容を少し補足します。

当社は、「福祉はぐくみ企業年金基金」から加入促進事務委託を受けて、はぐくみ企業年金の導入支援や制度設計などをカスタマーサクセス活動として実施しています。
また、導入後の総合サポートも私たちカスタマーサクセスの領域です。導入後のサポートや、導入推進を効率的に行うための「企業年金DXシステム」を契約法人さまにご提供しています。

当社のカスタマーは、BtoBおよびBtoEです。はぐくみ企業年金を導入している法人の担当者さまに加え、そこで働く従業員の方たちも当社のお客様です。
典型的なお客さまは「スモール法人」です、従業員が30名以下の中小企業の法人さまが約8割を占めています。一方、被保険者、つまり従業員数で見ると、ミドル/エンタープライズが7割以上を占めています。
ですので、スモール法人のお客さまはテックタッチで効率的にサポートする一方、ミドル/エンタープライズのお客さまはコンサルテーションを含むハイタッチでサポートする。そうすることで、きちんと売上貢献する構造が必要と考えています。
私たちの最重要KPIは「加入率」です。それこそが「顧客の成功」と定義しています。このKPIをあげることが売上貢献の最大化に直結します。
その他に、生産性向上の文脈から「CSM1人あたりの対応法人数」、顧客満足度や付加価値の提供という視点から「NPS」をKPIとして置いています。
カスタマーサクセス組織の人員数としては、私がサクセス学校の講座を受講した当時は10名程度でした。それが翌年には24名、現在は33名へと規模拡大しています。
次に、当社の事業状況です。

はぐくみ企業年金は2018年に4月に設立されました。
先ほど申した、事業拡大に伴い組織体制の構築が急務だったのは、このスライド上段のチャートが示す2022年~2025年の時期です。この急カーブを見ると、これだけのお客様を受け入れるカスタマーサクセス組織体制の構築がどれだけ急務だったかをご想像いただけると思います。
スライド下段にある通り、仕組みがとてもシンプルなはぐくみ企業年金と、カスタマーサクセスのノウハウ、そして、はぐONEと呼ぶ企業年金DXをかけ合わせることで、結果として加入率74.2%という非常に高い加入率を維持しています。

当社の収益構造としては、現在、フロー収入がストック収入を超えてきました。それに伴って、カスタマーサクセス活動も会社の事業収益に大きく寄与してきています。

カスタマーサクセス活動
次に、私たちが行動してきたことをご紹介します。

まず、カスタマーサクセス組織内で顧客体験を全体設計できる組織体制を構築しました。
開始当初は10名ほどの組織でした。現在はこちらのスライドにある通り、4つの課と、業務特性から6つのチームに切り分けた組織体制で、お客様の成功と共にサービスクオリティと生産性の向上を目指しています。
実際、それぞれのチームが連携することで顧客満足が向上し、売上に貢献できる組織体制ができてきたなと思っています。
先ほど、お客様の規模別セグメントに触れました。具体的には、ミドル・エンタープライズのお客様をCS1課の「プランナー」がコンサルテーションなどハイタッチでケアし、スモール法人のお客様をCS2課の「アシスト」がテックタッチでケアします。このように、セグメント別に部隊を分けて対応しています。
加えて、コンテンツ・サービスマネジメント課という、企画、戦術を練る部隊を分けておいています。また、サポートデスクとコールセンターをCS2課内に配置している点も特徴的です。

2つ目は、効果的かつ効率的なサポート体制の構築です。
先ほど申した法人規模別に加え、ITリテラシー別や理解度別に、さまざまなサポート体制を構築してきました。具体的には、CSサイトや、コールセンター、ビジュアルIVRなどです。
特徴的なものとして、どうしても自走できない法人さまに対して、「はぐONEアシスト」という、リモートデスクトップで操作を代行するようなサポート体制までサービス展開しています。

3つ目は、顧客の声を取得する仕組みを整えました。
具体的には、①アンケートの強化をしました。スライドで示す通り、導入フェーズだけでも色々なポイントでアンケートを複数回実施してお客様の声を取得し、それをプロダクトやサービスに日々反映させています。
また、②日々寄せられる顧客の声のデータ化・分析・自動化も進めました。電話、問合せフォーム、メール問い合わせ、それぞれから寄せられる顧客の声を、MiiTel や HubSpot を活用して自動的に集計・分析し、効果的にプロダクトに反映しています。

最後に、顧客の声をプロダクトやサービスへ反映した一例をご紹介します。
例えば、はぐONEを利用される顧客から「アプリがあった方がいいね」という声が寄せられたことを受け、はぐONEアプリをリリースしました。同様に、お客様の声を反映したいろいろなコンテンツを作成しています。
こうした取り組みをカスタマーサクセス組織で行っているところが当社の特徴点だと思います。

発表内容のまとめ
以上の内容を、4つの視点でまとめます。

まず「挑戦」です。業務フローの標準化徹底を日々推進しました。そして、顧客の声の収集と反映の仕組み化、プロダクトやサービスへの反映も追求しました。これ、言うは易しなんですけれど、結構やるのは大変でした。
「変化」としては、顧客セグメント毎のカスタマージャーニーマップの作成、アクションのシステムへの落とし込み文化が根付いた点が一番大きいです。結果、生産性が向上しました。
「成果」としては、事業拡大に伴って顧客が急増する中でも、カスタマーサクセスのKPIおよびNPSを維持・向上できた点が大きな成果でした。
「貢献」ですが、当社の事例は一般化しにくいかもしれません。あくまで当社内の貢献となりますが、重要KPIとして定めた「加入率」が顧客の成功であるということが学術的にきちんと証明できた点が、会社に対して大きな貢献だったと思います。
以上です。ご清聴ありがとうございます。

編集後記
事業が猛スピードで成長しているときは、組織の誰もが目の前の業務に追われます。そんな状況で多くの企業が陥りがちなのが、「とにかく人を増やしてハイタッチで乗り切る」という対応です。属人的な能力と個人の奮闘に頼るこのアプローチは短期的には機能しても、スケールには限界があります。
しかし、内谷さんは違いました。急成長の只中にあっても、将来を見据えた組織体制を当初から設計し、各チームの役割を明確に切り分け、仕組みで回る体制を着実に構築されました。ハイタッチ・テックタッチ・リモートデスクトップ操作代行という多層のサポートを、顧客の規模やITリテラシーに応じてきめ細かく使い分ける設計は、まさに「スケールする仕組み」の具現化です。
また、忙しい時期ほど後回しになりがちな「顧客の声を丁寧に拾う」取り組みにも、内谷さんは手を緩めませんでした。アンケートの多段階実施、電話・メール・問い合わせフォームの分析自動化、その声をプロダクトやアプリ開発へ反映するプロセスの整備。こうした地道な積み重ねが、単なるプロセス改善を超えてサービスそのものを進化させ、顧客の成功指標である「加入率74.2%」という高水準の維持につながっています。
カスタマーサクセスの本質は、リテンションモデルにおける収益のテコ(レバー)を最大限に活かすことにあります。利活用が進んだ顧客の成功体験がそのままストック収入の拡大につながり複利成長を生む構造を作る――内谷さんが着実に積み上げてきた取り組みは、まさにその王道を地に足のついた形で実践したものです。現在、ストック収入が全社売上の約6割を占めるまでに成長した同社の収益基盤は、内谷さんのリーダーシップなくしては語れません。
カスタマーサクセスの先例が少ない金融・企業年金という業界で、これだけの成果と実践知を惜しみなく共有してくださった内谷さんに、改めて感謝申し上げます。
これからカスタマーサクセス組織を立ち上げる方だけでなく、スケールする方法を模索中・取り組み中など多くの方の模範になる事例です。ここまで読んでくださった皆さまにとって、本事例がヒントになることを願っています。
カスタマーサクセスに挑戦する人が、知恵と勇気と仲間を手にする実践者コミュニティ「SuccessGAKO」
SuccessGAKO(サクセス学校)はカスタマーサクセスの未来を創る挑戦者を輩出する学び場です。カスタマーサクセスを追求するのに必要な知識を学び、自分で考え、実行することで、自社、顧客そして自身も成功することを目指す人のために誕生しました。経験豊富な講師陣による講義と受講生限定のコミュニティとが共鳴し、一方的な知識の習得でなく、仲間と切磋琢磨しながら行動することに価値をおいた実践者コミュニティです。
『認定カスタマーサクセス・法人研修』ご相談受付中