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    2025.06.08

    全社でカスタマーサクセス:ズームインフォ CEOが語る成長戦略の本質

    2025年5月、世界最大のカスタマーサクセスカンファレンス「Pulse(パルス)」がラスベガスで開催されました。

    2日目キーノートに登壇された、ZoomInfo Technologies(以降「ズームインフォ」)CEOのヘンリー・シュック(Henry Schuck)氏と、Pulse主催社のGainsight(以降「ゲインサイト」)CEOのニック・メータ(Nick Mehta)氏との対談は非常に興味深い内容でした。

    本稿では、日本の皆さんにお伝えしたいポイントをご紹介します。

    1)はじめに

    ズームインフォについて簡単におさらいしましょう。

    同社は、3億人超のビジネスパーソン・1500万超の企業データを擁する、世界最大級のB2Bデータベースを提供する米国SaaS企業です。

    営業・マーケティング活動に役立つ機能、すなわちトップ営業のベストプラクティスの全社展開、営業先の優先順位付け、リードスコアリング、QBR資料作成の自動化・効率化などが、AI・機械学習・AIエージェントを用いて提供される点が強みです。

    2007年に創業した同社は、コロナ禍の2020年6月に米国ナスダック市場.に上場して、その後のIPO市場再開を促す呼び水になりました。現在、全世界に約35,000社超の顧客企業を抱え、売上高は約12億ドル(約1800億円)です。

    そんなズームインフォの創業者でCEOのヘンリーさんは、Pulse2025のテーマ「Wicked」に合わせた緑色に輝くスーツで颯爽と登場し、会場を沸かせました。

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    対談中の2人。左がヘンリー、右がニック

    実はヘンリーさんにとってニックは「メンター」的な存在。ズームインフォ(当時はDiscoverOrg)が初めて資金調達した時、ヘンリーさんは投資家から「経験豊富なCEOに会って学ぶといい」とアドバイスされ、紹介されたのがニック・メータ氏でした。

    ヘンリーさんはニックと夕食を共にした後に「実務を見たい」と申しでて、ゲインサイトのオフィスで1日シャドーイングを経験。契約交渉や営業会議に同席し、数多くの実践知を学びました。今でも「CEOの1日シャドーイング」を仲間と実践しているそうです。

    そんな信頼関係に基づく率直な対談の内容について、筆者の考察を交えながら紹介します。

    2)売上成長には営業、サクセス、プロダクト、マーケ、経営の全連携が必須

    2025年5月、Pulse2025の約2週間前に、ズームインフォはナスダックのティッカーシンボル(銘柄コード)を「ZI」から「GTM」に変更しました(公式案内)。

    ヘンリーさんは冒頭この件に触れ、それは単なるシンボル変更ではなく、GTM(Go-To-Market)組織の統合と協働に対する経営の強いコミットメントを込めたものだと説明されました。曰く、

    営業だけがいい仕事をしても、カスタマーサクセスやプロダクトが連携していなければ、カスタマーは決して成功しない。本当の成果は、部門を越えた共通目標に向かって組織が一枚岩になったときにのみ生まれる。

    多くの企業では、営業は新規受注、カスタマーサクセスは活用・更新、プロダクトは開発KPI、マーケティングはリード獲得というように、それぞれが異なる言語・指標・評価体系で動いています。その結果、顧客の体験は断片され、組織全体の活動は一貫性を欠く状態に陥りがちです。

    そうしたサイロ化された部門の集合体ではなく、すべてのチーム・部門が組織横断の共通目標を掲げ、目標と整合する指標を設計・運用し、全社でカスタマーサクセスを推進することが大きな売上成長を果たすカギです。

    組織のサイロ化を解消するためにズームインフォが実践していることは以下3つ:

    • 共通のデータ基盤:営業・サクセス・マーケ・プロダクト、すべてが同じ顧客データを参照し、判断・行動に活用
    • 統一されたプレイブック:顧客社内のチャンピオンの異動、対競合比較、リスク兆候といったシグナルに対して、複数部門をまたいだ自動対応ルールを設定
    • 価値提供を軸とした全社KPI:新規受注やアップセル(拡販)ではなく、「顧客に届けた成果」で評価される全社KPIと、その運用を可能にする組織文化

    このような組織横断な共通目標・指標の設計と実行の一体化、そして、営業やサクセスのような顧客と接する部門に加え、プロダクトと経営も含む全社でカスタマーサクセスを推進することに責任を持つ姿勢、それらがズームインフォの成長を支える基盤になっています。

    3)良質な顧客データ基盤を整えることがAI活用の大前提

    対談中、ヘンリーさんは「2年後にはGTM業務の70%がAIエージェントに置き換わる可能性がある」と予測しました。

    ズームインフォは「すべての営業担当者を最高の営業担当者にする」という目標を掲げ、営業やカスタマーサクセス部門に「AIエージェント(仮想的共同セラー)」を導入しています。

    このAIエージェントは、顧客を深く知るための情報を収集し、アカウントを容赦なく優先順位付けし、必要なアクションを提案してくれます。こうした作業を担うAIの精度が向上した暁には、GTM業務の7割は人の時間を使わずに済むというのです

    ただ、AIエージェントがそこまで機能するには、「良質な顧客データ基盤を整えることが必須」とも強調されました。

    そして、「AIを導入すれば売上が伸びる」といった、やや安直な期待が広がるビジネス界に対して、ヘンリーさんは極めて現実的なメッセージ「AI導入の前にデータ基盤を整備せよ」を提唱しました。

    実際、営業担当者がエクセルや手書きメモなどで顧客情報を管理していたり、各担当者がバラバラなフォーマットや粒度で顧客情報を管理していたなら、AIを活用する余地は非常に限定されます。

    ズームインフォでは、全社連携を支えるデータ基盤の構築に注力。具体的には、自社の1stデータと外部の3rdパーティデータを統合することで、誰もが同じ情報に基づき意思決定・行動できる仕組みを整えました。

    この「AIが走るためのレール(=データ基盤)」を得たことで、ズームインフォでは「顧客のリスク兆候を自動検知」「拡販機会を予測して提案」「最適タイミングでQBR資料を自動作成」など、現場実務レベルでAI活用が進んでいます。

    日本に目を転じると、顧客データ基盤の整備をおざなりにしたまま、むしろデータ整備の遅れを解消できるのではと淡い期待を抱き、AIなど先端技術を導入することで現状打破を夢見る日本企業は少なくありません。

    自社の顧客情報が社内のどこにあり、どう扱われているのかを見直すことが出発点」というヘンリーさんの指摘はAI活用に取り組む多くの日本企業にとって非常に重要な助言です。

    4)経営の本質は最適リソース配分 ー 重心は「売った後」

    対談後半、「優れたリーダーはリソース配分が上手い(The best leaders are great resource allocators)」というヘンリーさんの指摘に2人は意気投合し、議論が盛り上がりました。

    ヘンリーさん曰く、「別の方法でリソース配分していたら、より良い結果が得られただろうか?」と常に自問・検証する姿勢が重要で、それはM&Aや自社株買いといったCEOの意思決定から、現場担当者の時間・予算の使い方にまで共通します。

    続けて、「多くのCEOが、事業成長は既存の顧客基盤から来ると認識しているにも関わらず、実際のリソース配分や現場のエネルギーは新規顧客の獲得に偏っている」と断言しました。曰く、

    新規獲得(プリセースル)側には多くのツールや厳格なプレイブックが整備されている一方、ポストセールス側にはその「厳格さ」が不足している。
    On the post-sales side, we have much less of that rigor as we do on the net new logo acquisition side.

    例えば、顧客企業内の推進者(チャンピオン)が転職したり、担当者が競合製品を調べたりといったシグナルは、新規営業だけでなくポストセールスでも同様に重要なこと。そうした事態に対処するプレイブックをポストセールスでも用意し運用すべきだと主張します。

    その背景には、過去の苦い経験がありました。ズームインフォは顧客から「いつも新しいものを売ろうとしている」と指摘されたのです。

    この厳しい顧客の声を重視したヘンリーさんは、以来、顧客の課題解決を手助けして価値を提供することにGTMチームを注力させ、アップセル偏重の報酬体系を見直しました。また、製品開発も「1つの素晴らしいもの」に集中させ、その活用を促すために「1年間新しい製品を売らない」と宣言するなど、正に全社でカスタマーサクセスを徹底推進したのです。

    同時に、すべてのチームが「自分たちの活動が顧客の成果にどう影響するのか、どんな価値を提供すると自社の収益に結びつくのか」を常に意識して行動する組織文化の醸成にも努めました。こうした組織文化は、リソースが限られる中で最大の成果を出すために不可欠だからです。

    大きな売上成長を果たしたい日本企業の経営者には、ヘンリーさんのように、顧客を中心に据えて考え行動する企業文化を醸成すること、そして経営主導でリソース配分の優先順位を決めて資源を集中させることへの覚悟が求められるでしょう。

    5)日本企業への示唆 ー 「全社でCS」を実現するには

    ヘンリーさんとニックの対談は、「全社でカスタマーサクセスを推進するとはどういうことか」を極めて実践的に示してくれるものでした。

    最大の教訓は、カスタマーサクセスを全社の成長戦略として位置づけることの大切さです。

    そして、戦略実行の鍵となるのは、良質な顧客データを整備しデータを全社で活用する組織文化と仕組みを整えること。経営者には「成果につながる行動に経営資源をどう配分するか」を常に自問・検証しながら、資源を集中させる意思決定への覚悟が求められます。

    最後に、ここまで読んでくださった皆さんに質問です。

    皆さんの会社では、カスタマーサクセスを全社の成長戦略に位置付けて実行する準備はできていますか? ぜひ周囲の仲間と会話してみてください。

    カスタマーサクセスに挑戦する人が、知恵と勇気と仲間を手にする実践者コミュニティ「SuccessGAKO」

    success gako

    SuccessGAKO(サクセス学校)はカスタマーサクセスの未来を創る挑戦者を輩出する学び場です。カスタマーサクセスを追求するのに必要な知識を学び、自分で考え、実行することで、自社、顧客そして自身も成功することを目指す人のために誕生しました。経験豊富な講師陣による講義と受講生限定のコミュニティとが共鳴し、一方的な知識の習得でなく、仲間と切磋琢磨しながら行動することに価値をおいた実践者コミュニティです。 

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