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CloudflareとCiscoに学ぶ「スケールするカスタマーサクセス」1万社を14.5人でカバーする仕組みとは

作成者: 弘子ラザヴィ|Apr 24, 2026 3:15:00 PM

カスタマーサクセス活動をスケールさせたい。けれど、何から手をつければいいかわからない、という方はとても多いです。

そこで本稿では、SuccessGAKO(サクセス学校)が2024年10月に開催したウェビナーの内容を基に、スケールするカスタマーサクセス、略して「スケールCS」について、2社の事例をご紹介します。

具体的には、世界最大のCSカンファレンス「Pulse 2024」でクラウドフレア(Cloudflare)が発表された内容を弘子ラザヴィが、そしてシスコ(Cisco)の事例をSuccessGAKO(サクセス学校)「スケールCS講座」講師の小泉雅人さんが解説し、ウェビナーでの質疑応答も併せてご紹介します。

なお、ウェビナーのアーカイブを公開(リンクは本稿末尾)しています。本稿で紹介しきれない質疑応答の内容も併せてご視聴ください。

1. スケールするカスタマーサクセスとは何か? :クラウドフレアの事例

写真の女性、クラウドフレアのカスタマーサクセス責任者ナイラ・ラドさん(左)と、同スケールカスタマーサクセス・グローバルリーダーのジャッキーさん(右)が「Maximizing Impact at All Levels(全レベルでインパクトを最大化する):成熟したカスタマーサクセススケールプログラムの構築」をテーマにお話されました。

クラウドフレア(Cloudflare)とは

クラウドフレア(Cloudflare)は、2009年にサンフランシスコで誕生した会社です。ウェブセキュリティとパフォーマンス最適化に特化して急成長し、2019年にニューヨーク証券取引所に上場しました。直近2023年の年間売上は約13億ドル、上場後の平均成長率(CAGR)は46%という素晴らしい業績をあげている会社です。20242月時点、上位百万サイトのうち 23 万サイトを含む、全ウェブサイトの 20.5% をサポートしています。

なぜスケールするカスタマーサクセスを始めたのか?

ナイラさんは冒頭、ハーバードビジネスレビューの記事「最高のカスタマーサービス(Kick-Ass Customer Service)」を引用し、全顧客の81%は企業担当者と連絡する前に自力で問題解決(セルフサーブ)しようとしている、という実態をリマインドしました。

現代の企業には、顧客と会話する「人」だけでなく、顧客が欲しいコンテンツや情報を、必要なタイミングや方法で自ら利用できる仕組みが求められています。こうしたカスタマー体験(CX)を良くすることはとても大切です。

一方、クラウドフレアのスケールCSは、単にCX(顧客体験)を良くすることではありません。同社では、セルフサーブを促す「デジタルエクスペリエンス プログラム」と並走する形で「スケールサクセス」プログラムが始まりました。

実際、それは事業が急成長する中、必要に迫られて始まりました。ジャッキーさんは、当時の状況をこう表現しました。「CSMは受信トレイで作業していました」。

スケールCSの導入前後(Before & After)

スライド左手:スケールCS前(Before)

CSM 1人あたりの担当顧客は80社。実際は目の前の顧客対応に追われ、担当の約20%としか会話できていません。それも、目の前の顧客は必ずしも重要な戦略顧客とは限らず、新規や小規模で要求が厳しい顧客も多く、内容はリアクティブなヘルプに留まり、価値実現に繋がる活動はできていません。結果、契約額は大きいのに効果的にエンゲージできていない顧客が常にいました。

スライド右手:スケールCS後(After)

戦略顧客を担当する「ネイムドCSM」は1人あたり630社に絞り、担当が付かない1万件のアカウントは「スケールサクセスチーム」がカバーする体制にしました。単純タスクはデジタルに置き換え、回答もスケーラブルな方法を活用して効率化した結果、顧客と会話する内容はリアクティブからプロアクティブな内容に変わりました。

クラウドフレアの「スケールサクセスプログラム」とは

クラウドフレアは、スケールするカスタマーサクセスを次のように定義します。

デジタルとヒューマン(1対多)のタッチポイントを組み合わせたカスタマーエンゲージメント戦略。目標は、すべてのお客さまにクラウドフレアの製品を使いこなして成果を手にしてもらい、さらに多くの製品を購入してもらうこと。結果、グロスリテンションとネットリテンション(NRR)にダイレクトに影響する。

この定義には、サクセス学校として、重要なポイントが3つあると思います。

対象は「すべてのお客様」
スケールCSの本質は、ハイタッチできる戦略顧客だけでなく、全顧客をカバーすることです。

② NRR(ネットリテンション)に直結させる
すべてのお客様をケアし、1人の脱落も放置しない方針で活動する。そうできてはじめて、カスタマーサクセスはコストセンター から収益ドライバーになります。それがスケールCSの目的です。

デジタルとヒューマンのタッチポイントの組み合わせが基本
タッチ手法はセグメントと1対1関係ではありません。戦略顧客にもデジタルタッチをします。担当CSMがつかない顧客にも、プール型やグループセミナーなどで必要なヒューマンタッチをします。

なお、私達はこの点を数年前から繰り返し言ってきました。通称「青本」のピラミッドは間違っています。筆者も間違いを認めていますので忘れましょう。

スケールCSプログラム構築の「ジャーニー」とは

2人は、スケールCSプログラムの構築を「ジャーニー」と称し、立ち上げから洗練化させていった道筋を紹介しました。

1) Build/構築(立上げ)
世界中の複数チームが「プールプログラム」の手法を試験的に実施。業務効率や各種指標を測定しながらスケールモデルを構築しました。

2) Align/統一
世界中の複数オフィス間で足並みを揃え、バラバラだった活動を統合しました。

3) Enhance/強化
データドリブンのアプローチとパーソナライゼーションを磨き込みました。

4) Innovate/革新
カスタマージャーニーを更新し、先端の取り組みを取り入れ、テストと改善を繰り返し続けている現在進行形のフェーズです。

正に、ジャーニーです。つまり、ある朝ハッと思いついて実行した、という類のものではなく、時間をかけて検討を重ね徐々に発展させてきたプログラムなのです。

Build(立上げ)期の具体的な取り組み

例えば、Build(立上げ)期では、約2年かけて、世界中のオフィスで、各チームがプールプログラムとその具体手法を試験運用しました。

具体的には、全アカウントを1つ1つ選別し、特定セグメントに分類された顧客を「担当CSM制」から「プール制」 に移行。同時に、担当CSMが行うエンゲージメント活動も簡素化させました。

プレイブックを作成し、CTAを設定することで、すべての顧客に有効なオンボーディング体験を一貫して提供できるようにしました。

そのためにはまず、カスタマージャーニーを深く掘り下げ、重要なポイントを特定し、脱落リスクのある箇所をデータで確認して解決策を試していく。この一連の作業を世界中のチームが並行して行い、最終的に標準化しました。

ここでナイラさんが「スケールCSの重要原則」と強調したのは、「実験を繰り返す」、「常にフレキシブルに考える」、そして「主観でなく、データが示す方向に注目する」です。

例えば、送信するメール1つでも、件名や送信タイミングを変えて何度も試す。そうすることで、担当CSMがついても・つかなくても、CSMが誰であろうとも、必要なタイミングで有効な対策・メッセージが確実にお客様へ届くようにするのです。

スケールCS活動の成果:エンゲージメント指標

この中で、私が個人的に目を引くのは2つの数字です。

1つは、左上の「Year to date engagement」。年初来現在までの間にサポートされたカスタマーは契約金額ベースで82。そしてもう1つは、右上の「Q3エンゲージメント」。第3四半期の3か月間にエンゲージメントできたユニーク顧客は37。ともに非常に高いカバレッジです。

衝撃の数字:顧客1万社を担当するCSMは何人?

当日の質疑応答タイム中、会場から質問があがりました。

顧客1万社を担当するCSM は何人ですか?

答えは、14.5人です(北米12人、EMEA 2人、APJ 0.5人)。スケールCSが適切に機能すれば、これだけ少ない人数で、売上約2000億円企業の世界中にいる顧客1万社をカバーできるのです。

 

2. スケールするカスタマーサクセスとは何か? :シスコの事例

私は、小泉雅人と申します。現在、アジアパシフィック地域のデジタルを活用したカスタマーサクセス、リニューアルパートナーサクセスを担当するチームのシニアマネージャーです。

シスコはネットワーク機器を製造販売する会社です。8年前に始まったリカーリングビジネスへのトランスフォーメーションの一環としてカスタマーサクセスを立ち上げました。以来、デジタルとプラットフォームを活用したスケール型のカスタマーサクセスを実践しています。

テックタッチの基本モデル:ガイド →セルフサーブ →アシスト

シスコでは、「お客様を適切にガイドする」をテックタッチの基本的な考え方としてします。カスタマージャーニーに沿ってどのようなアクションを取っていただきたいのか、それを適切なタイミングで適切なコンテンツを送ることによってお客様を誘導していきます。

その後、案内したアクションをセルフサーブでなるべく完了していただくことを目指しています。ドキュメントやオンラインコミュニティ、ウェビナーなどを使い、セルフサーブでアクションを取り、完了して次のステージへ向かうということを最大化していきます。

どうしても人によるアシストが必要な場合には、お客様はオンラインフォームなどを通して人によるサポートが受けられるようになっています。

①ガイド:Eメールによる自動誘導

シスコでは、カスタマージャーニーに沿ったEメールをご用意しています。まずは、お客様が利用できるリソースの一覧をご案内し、導入に必要な情報を提供しています。導入が完了すれば、製品の機能紹介や利用促進を促すメッセージをお送りしています。

これらEメールは、マーケティングオートメーションツールを活用し、すべて自動化されています。お客様がカスタマージャーニーのどこにいるのか製品の利用データを元にカテゴライズされ、そのお客様に適切なタイミングで適切なコンテンツが人を介さずに自動的に配信されるようになっています。

セルフサーブ:ガイド付きリソースサイト

お客様がガイドされた先に飛ぶと、セルフサーブを最大限サポートする方法として「ガイド付きリソースサイト」を用意しています。

単にドキュメントが格納されたページではなく、お客様がどのようなアクションを取る必要があるのかを明記しています。そして、そのアクションに基づいてドキュメントを配置したページになっています。

皆さんも、リソースページに行った時、コンテンツは大量にあるけれど自分が必要なものが結局見つからないとか、そもそもどんなアクションを取っていいか分からないといった経験があるのではないでしょうか。そうした経験を解消するために、アクションを明確化して、それに沿ってコンテンツを設置しています。

オンラインコミュニティでは、ユーザー同士が知の共有や質疑応答ができます。積極的に誘導することで類似の質問へのセルフサーブを促すと同時に、どのような質問があるのかをデータとして蓄積し、さらなる施策の磨き込みにも活用しています。

シスコのエンジニアへ直接質問できる「アスク・ザ・エキスパート」ウェビナーも開催しています。カスタマージャーニーに沿ってよくつまずくポイントをテーマに取り上げ、ウェビナーの最中にはリアルタイムでエンジニアへの質問も可能です。このようなウェビナーを月30回近く開催しています。

アシスト:フォームによる人的サポート

どうしても助けが必要な場合のオンラインフォームも、セルフサーブのページ内に設置しています。「メールリソースサイトフォーム」という動線がワンセットになっています。

こうした取り組みを組み合わせることで、お客様を適切にガイドしセルフサーブを最大化することが、シスコのテックタッチのベースラインです。

サクセスプレイ:ベースラインを補完する施策

ベースラインは常に改善し続けていますが、それでも中には、カスタマージャーニーの途中で止まってしまい、導入や利活用が進まないお客様もいらっしゃいます。そこで、「サクセスプレイ」と呼ぶ補完施策を展開しています。

サクセスプレイは全員に送るものではなく、例えば以下の通り、対象が明確に絞られています。

・コンタクト情報が古くなっている顧客への更新依頼キャンペーン

・新バージョンへの移行促進メッセージや新機能紹介ウェビナーへの誘導

・特定アクションが完了していない顧客へ個別化したピンポイントのコンテンツ配信

・利活用が進んでいるお客様へ他製品をクロスセル提案

こうした取り組みの結果、シスコでは、デジタル施策を行った集団は、デジタル施策を行わなかった集団と比較して、2.3倍ほど製品利活用が進んでいるというデータがあります。

 

3. 対談:実務に役立つ質疑応答

ウェビナー後半の対談・質疑応答から、スケールCSを実践したい方にとって特に重要な5つのQ&Aをご紹介します。

質問:クラウドフレアの事例について小泉さんが最も共感した点は何でしたか?

全体的に共感するところばかりでしたが、特に「スケールCSとはテックタッチのことではありません」という点です。デジタルと人のタッチポイントを適切に組み合わせることで、すべてのお客さまと効果的にエンゲージし、製品を使いこなしてもらうというのが本質ですよ、という点です。それが最終的に売上に繋がる。そういったカスタマーサクセス活動をしなければいけない、という点は、私がずっと言い続けているスケールCSの本質とぴったり重なります。

もう1つ、ジャッキーさんの言う「スケールCSはジャーニーだ」という点です。カスタマージャーニーを元に、重要なエンゲージメントを整理して、それを標準化する。そうすることで、データに基づいてテックタッチができるようになり、その効果を測って改善し続けることができるという点です。「カスタマージャーニーを書いたきり使っていない」「目的もなくとりあえずメールを送ってみたが、やはりテックタッチはダメだ」——そうではないというところが、最も共感した点です。

質問:シスコのデジタルCSの仕組みは具体的にどう動いているのですか?

メール・リソースサイト・問い合わせフォームがワンセットになった「ベースライン」ジャーニーが、マーケティングオートメーションで完全自動化されています。顧客がジャーニーの各ステージに到達すると、次のメールが自動送信されます。すべてのステージにCTAが設定されており、アクションが完了すると次のステージへ進み、次のコンテンツが配信される仕組みです。

このベースラインで動かない顧客に対して、別途「サクセスプレイ」を展開します。サクセスプレイは全員に送るものではなく、「一定期間アクションが完了していない顧客」など、対象が明確に絞られています。

実際、誰に・どのサクセスプレイを展開するかは、CSMにゆだねられている感じです。ベースラインのどこで詰まるのかを我々もまだ完全に把握しきれていないのと、パイロット的な位置付けのサクセスプレイも結構多いので、ダッシュボードを見ながら「このコンテンツを送って動くか試してみよう」というときもあります。

質問:Eメール施策ではどのくらいの反応率を期待していますか?

良い施策で1020%程度です。「メール1つで100%全員動かす」ことを期待する方は多いですけれど、それは基本的に無理です。メール1つで10%も動けば、私としては十分だと思っています。なぜなら、メールを開封したのにアクションが未完了の顧客を優先的にCSMがフォローアップするという役割分担が機能するからです。CSMがゼロから文章を書いて個別送信するよりも、はるかに効率的です。

質問:シスコではヘルスコアをどう使っていますか?

シスコにもヘルスコアは存在しますが、ヘルスコアよりも、ジャーニーのどのステージに顧客がいるのかを可視化したダッシュボードを中心に据え、ジャーニーの進捗に基づく判断を優先しています。

具体的に言うと、まずダッシュボードを見て、大きな塊として「ステージ」を見て、さらに深掘りしてどのアクションが未了だから止まっているのかを特定し、顧客をセグメント化して、そのアクションを完了してもらうためにパーソナライズされたメッセージを送ったり、ウェビナーを開催するための招待を送ったりという施策をピンポイントで打っていくという展開です。

質問:スケールCSは何から始めればよいですか?どのくらいの期間がかかりますか?

最初に取り組むべきはカスタマージャーニーの深掘りです。ジャーニーがなければ、顧客がどこで止まっているかを把握できないため、デジタル施策が設計できないからです。皆さんの中には、カスタマージャーニーを「書いたきりで全く使っていない」という方もいらっしゃると思います。まずは、カスタマージャーニーを実際に機能させることが出発点です。

期間については、シスコでも最初のバージョンを構築するのに23年、現在の形になるまでにさらに12年かかっています。私自身、シスコで8年ぐらいカスタマーサクセスを担当していますが、未だに何が正解か確信はありません。確かなのは、「1ヶ月のプロジェクト」ではなく、長期のジャーニーとして取り組むことが必要だということです。

4. おわりに:小泉雅人氏より

スケールするカスタマーサクセスは、一夜にして完成するものではありません。クラウドフレアもシスコも、カスタマージャーニーを徹底的に深掘りし、データを見ながら実験を繰り返してきました。

スケールするカスタマーサクセスは、デジタル「施策」の話ではなく、データに基づく「戦略」です。そして、始めた人だけが確実に前に進めます。「何から手をつければいいか分からない」という方こそ、ぜひ一度のぞいてみてください。

▼ウェビナーアーカイブ

本稿は、SuccessGAKOが開催したウェビナー「スケールするカスタマーサクセス最新事例:CloudflareとCiscoの事例から」(2024年10月)の内容をもとに構成しました。