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ICP(Ideal Customer Profile)とは何か:「正しいカスタマー」と共に売上成長する鍵

作成者: 弘子ラザヴィ|Mar 27, 2026 4:00:00 PM

「正しいカスタマーに販売すべし」。これは、カスタマーサクセスの大原則です。複利成長を目指す企業なら、この原則を徹底せずに成長を加速させることはできませんそして、正しいカスタマーに販売する上で重要なのが 「ICP」 という概念です。

ICP(Ideal Customer Profileの略。理想のカスタマー像)とは、マーケティングや営業が見込み客と接するときに参照する最優先セグメントを、厳密かつ明快に記述したものです。

本稿では、「正しいカスタマーに販売する」を組織として推進する上で重要な 「ICP」 について解説します。初耳だ、という人でも、その意味と重要性について理解し、明日に活かせるヒントがある内容です、ぜひ最後までご一読になり、売上成長を加速させてください。

1. ICP(アイ・シー・ピー)とは何か?

改めて、ICPとは、マーケティングや営業が見込み客と接するときに参照する最優先セグメントを、厳密かつ明快に記述したものです。

平易な言葉でいうと、「うちの製品・サービスがメチャクチャお勧めな相手(企業・個人)」のことです。ICPならば、自社の製品・サービスを自力で120%活用し、期待した成果を手にして、買増しを申し出てくれ、長く利用し続けてくれ、頼まなくても周囲に本音でお勧めしてくれます。

ポイントは、「最優先セグメント」という点です。大勢いるカスタマー候補の中で、自社の製品・サービスとマッチする度合いが抜きんでて高い優良カスタマー候補です。つまり、マーケティングや営業のリソースを最優先して割くべき相手です。

ICPが全社で運用されている組織では、「XX(社名)クラスだ」、「ジョンのいる会社ね」と誰かが言えば、全員がICPのことだと瞬時に理解できます。それくらい、具体的に言語化された定義が共有されています。

ICPはどれくらい具体的に定義するものか?

ICPと聞くと、「ターゲット顧客の定義」と混同する方がいます。しかし、一般的なターゲット定義と比べて、ICPははるかに具体的に絞り込まれています。

SaaS業界の著名ブロガー、レニー・ラチツキー(Lenny Rachitsky)氏が20社近くのICPを調査・分析したところ、共通して「最低3つの属性」で定義されていることがわかりました。彼が記事「How to identify your ideal customer profile (ICP) 」で紹介している15社のうち、日本でも馴染みのありそうな4社の初期ICPを以下に紹介します。

Gong(会話音声分析ツール)の初期ICP:

  • 英語を話す人向けのソフトウェアを開発している
  • 営業活動にビデオ会議を活用している
  • 1,000〜10万ドルの価格帯のソフトウェアを販売している会社

Figma(デザイン支援ツール)の初期ICP:

  • 中堅のソフトウェア会社
  • 社内に複数のデザイナーがいる
  • 優れたデザイン性を重視する会社

Gusto(人事・給与管理プラットフォーム )の初期ICP:

  • 従業員が5人未満
  • カリフォルニアに拠点がある
  • 業務委託(フリーランス)を使っていない会社(全員が正社員)

Canva(デザイン支援ツール)の初期ICP:

  • フリーランス、ないし中小企業で働く
  • ソーシャルメディアの管理者
  • InstagramとPinterestに投稿する担当者

どうでしょう?「ターゲット顧客」とは一線を画す、絞り込んだ具体性があります。

もちろん、GongもGustoも、成長とともにICPを更新しています。最初から完璧である必要はなく、「ここから始める」という具体的な定義を持つことが重要です。

ICPを言語化すると分かることは?

実際にICPを属性3つで記述してみると、チームで意見が割れたり、言葉が出てこなかったりします。結果、「自分たちが、どれだけお客様を知らなかったか」に気づくことが多いです。

実は、それ自体が重要な発見です。ICPを言語化しようとするプロセスが、自社の顧客理解の深さと組織内の認識のずれを可視化してくれるのです。

2. なぜICPを定義することが重要なのか?

ICPを定義することの意義は、2つあります。

1つ目は、リソース配分の優先順位を、主観でなく客観的な基準で決められることです。

カスタマーサクセスにかけられるコストは有限です。SaaS業界では、ポストセールス全体(サクセスとサポートを合わせた活動)へ投じられるリソースは売上の約10%以下と言われています。その限られたリソースを、「どの顧客に、どれだけ向けるか」を感覚で決めていると、知らず知らずのうちに非効率な配分になりがちです。

ICPが明確であれば、迷ったときの判断基準が生まれます。「この相手はICPに近いか、遠いか」という客観的な軸で、営業活動もカスタマーサクセス活動も優先順位をつけられるようになります。

2つ目は、組織全体が同じ方向を向いて動けることです。

「正しいカスタマーは誰か」の認識が営業・マーケティング・CSで揃っていなければ、それぞれが「良かれと思って」バラバラな行動をします。ICPは、その認識を揃えるための共通言語です。

拙著『カスタマーサクセスとは何か』では、「カスタマーは誰か」「カスタマーに提供する価値は何か」の定義があいまいなまま事業拡大を図ろうとして痛手を負い、その後に定義を徹底することで立て直した企業の実例を紹介しています。ICPの定義は、こうした組織的な失敗を防ぐ土台になります。

3. 「正しいカスタマー」「売ってはいけないカスタマー」「ICP」——3つの関係を整理する

ICPを理解した方の多くが混乱するポイントがあります。「正しいカスタマー」「売ってはいけないカスタマー」との関係です。大切なポイントなので、確認しましょう。

  • 売ってはいけないカスタマーとは、誰に聞いても「この相手には売るべきでない」と意見が一致する、明らかに自社の製品・サービスが向かない相手です
  • 正しいカスタマーとは、「売ってはいけないカスタマー以外の全員」です。つまり、理想的な活用への道筋が描けるカスタマー全体を指します
  • ICPとは、正しいカスタマーの中で、最優先に営業・マーケティングのリソースを投下すべき理想的な顧客像です。最もヘビーに使い続け、成果を出し、やがて買い増しも期待できる相手です

図にすると、こうなります。

  • 全カスタマー =「売ってはいけないカスタマー」+「正しいカスタマー」
  • 「正しいカスタマー」の中に ⊂「ICP」がある

「売ってはいけないカスタマー」と「ICP」が両極に存在し、実際は、そのどちらにも属さない相手が大勢います。そうした「正しいカスタマー」を、リソースの優先順位をつけながらケアすることでLTVを高めていくこと、それがカスタマーサクセスです。

ICPは「優先順位」であり「除外基準」ではない

ICPを運用しようとする企業が陥る落とし穴があります。それは、「ICP=正しいカスタマー」と思い込み、「ICP以外には売ってはいけない」と勘違いすることです。これは大きな誤りです。

ICPは、「最優先」の基準、つまり「この相手が来たら絶対に逃してはいけない」相手です。ICPに当てはまらない相手を排除する基準ではありません。正しいカスタマーであれば、ICPでなくとも売ることに何ら問題はありません。

言い換えると、ICPとは「イエスかノーか」を決める二択のフィルターではなく、「どの相手に最も力を入れるか」を決める優先順位の軸です。

勘違いした企業がICPを定義すると、「これだと一部のお客様がカバーできなくなる」という不安が生まれます。しかしその不安が、ICPを曖昧な定義のままにしてしまう原因になります。

4. ICPを言語化してみる——理解を確認するワーク

ICPを正しく理解したか確認するには、自社のICPを実際に書いてみるのが最も早いです。

あなたの製品・サービスのICPを、属性3つで記述してみましょう

そして、書き出した属性3つを改めて見て、「これが、本当にICPか?」を評価してみましょう。ポイントは、その属性に該当するカスタマーの希少性です。

ICPは、対象者が広すぎると機能しません。

例えば、「従業員1,000名超の中堅企業で、ソフトウェアを開発し、業務効率化に関心がある」では、多くの企業が該当します。「この条件を満たした相手が来たら、どんなに忙しくても最優先で動く」と言えるレベルまで絞り込むことが大切です。

おわりに

ICPを定義することは、単にマーケティング上のセグメンテーションを決める作業ではありません。「誰の成功を届けるか」でリソース配分の優先順位を決める経営イシューです。

  1. ICPとは、マーケティングや営業が最優先で向き合うべき理想の顧客像を、最低3つの具体的な属性で定義したものです
  2. ICPを定義する目的は、限られたリソースを最も効果的に配分するための優先順位の軸を、組織の共通言語として持つことにあります
  3. ICPは「除外の基準」ではなく「優先順位の基準」。ICPに当てはまらない相手を排除するためのものではありません

あなたの会社では、「最優先の顧客は誰か」という問いへの答えが、組織全体で共有されていますか?まずはチーム内で議論してみると良いでしょう。