カスタマーサクセスのチームに増員したり先端テクノロジーへ投資しようとする企業では、カスタマーサクセスの投資対効果(ROI)が議論になります。
創業間もない2014年にGainsightへ参画し、以降6年の間に CCO(Chief Customer Officer)そして COOを歴任された アリソン・ピケンズさんが「カスタマーサクセスのROI」について書いた記事をご紹介します。
彼女はカスタマーサクセスのROIを、カスタマーサクセスチームと紐づけて考えます。具体的には、まずカスタマーサクセスチームの責任範囲を明確にし、3つの組織モデルの長短を考察し、踏まえてカスタマーサクセスのROIを求める収益指標を導くアプローチです。
2016年頃に書かれた記事ですが、元経営コンサルタントの彼女らしく非常に論理的に展開された内容です。ぜひ1つの考え方として参照し、自社へのヒントや気づきを得てみてください。
注:Gainsight社の許可を頂き原文の和訳を紹介します。
カスタマーサクセスのROI/投資対効果
カスタマーサクセス責任者が夜眠れなくなる質問はこれです:
カスタマーサクセスのROI は?
なぜなら、2つの理由からその質問に答えることはとても難しいからです。
課題1)責任範囲は広いが影響力は限定的
通常、カスタマーサクセスチームは契約更新とアップセルについても責任を負っています。
カスタマーサクセスマネジャーがどれだけ賞賛に値する働きをしたとしても、カスタマーがそれだけを理由に契約更新する事はまれです。
プロダクトチームはマーケットフィットを担当し、営業チームは相手が適切なプロフィールとリソースを持つカスタマーである事を確認した上で営業活動を行い、サポートチームは問い合わせにタイムリーに対処します。
他部門も、カスタマーサクセスチームがカスタマーにアップセルする支援をします。
現実的なことを言うと、契約更新やアップセルの裏には一つの村が出来るほどの人員が必要です。貢献するのはカスタマーサクセスだけではありません。
課題2)影響範囲は広いが責任は限定的
一方、カスタマーサクセスマネジャーは責任を負わない指標へも影響力をもちます。
いくつか例を挙げます:
MQL(訳者注: Marketing Qualified Lead の略でマーケターが特定する有望顧客リスト):
インバウンド見込み客が「御社のプロダクトが素晴らしいと聞きました」と言ってきたら、その裏には彼らに話してくれた既存カスタマーと担当カスタマーサクセスマネジャーがいます。しかしMQLの公式な責任はマーケティング担当が負います。
成約率:
既存カスタマーの紹介で契約してくれた見込み客の裏にはカスタマーサクセスマネジャーがいます。しかし成約率の公式な責任は営業部門がもちます。
処理時間:
サポートチームが問題を素早く処理出来た時、実はカスタマーサクセスマネジャーが有用な情報をインプットした事が効いたのかもしれません。しかし処理時間に対する公式な責任はサポート部門が負います。
バグ率:
プロダクトの品質改善の裏では、カスタマーサクセスマネジャーがエンジニアリングチームへカスタマーからのフィードバックを共有しています。しかしバグによるインシデントに対し公式な責任を負うのはエンジニアリング部門です。
繰り返しになりますが、カスタマーサクセスのROIはカスタマーサクセスマネジャーが通常責任を負う指標だけで測れません。
1つ目の課題は広く認識されています。
カスタマーサクセスチームは責任をもつ指標すべてに対し必ずしも全面的な影響力を持ちません。従って契約更新率が改善してもカスタマーサクセスチームが手柄を独り占めする事はありません。
プロダクトチームがユーザビリティに、サービスチームが実装プロセスの改善に貢献していることを分かっています。
興味深いのは、多くの企業がカスタマーサクセス以外の部門も、1つ目の課題を抱えることを認識していない点です。
- マーケティングはMQLターゲットの獲得目標に全面的な責任を負います
- 営業は新規カスタマーの獲得目標に全面的な責任を負います。
2つ目の課題の例にあるように、現実はマーケティング部門も営業部門もMQLや新規事業に対し全面的な影響力を持っていません。
カスタマーサクセスはこの両方の指標に対し貢献できます。
カスタマーサクセス以外の部門も同様に2つ目の課題を抱えています。通常責任を負わない指標に影響力を持っているのです。
例えば、営業部門が売り込みして新規契約を獲得したカスタマーのプロダクトフィット有り・無しは、タイム2バリュー(訳者注:カスタマーがプロダクトを利用し始めてから価値を実感・実現するまでの時間)や、最終的には契約更新率やアップセル率に大きく影響します。が、営業部門にとっては、新規契約の獲得目標を達成さえすれば「すべて良し」です。
課題1と2はベン図を用いて説明できます。二つの例を図示してみましょう:1つはカスタマーサクセスマネジメント部門、もう1つは営業部門です。
カスタマーサクセスマネジャーは契約更新率やアップセルの指標に対し責任を負いますが、完全に影響力を及ぼす事が出来ないため、影響度を示す円の縁側に寄っています。

営業部門も同じような感じです
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なぜこれが問題なのでしょうか? それは、通常こういう結果が待っているからです。
- ある指標を改善したい時、その指標に影響を与える部門が複数あるため、どの部門に投資すべきか分からない
- あるリソースの使い方(例えばこのブログにかけている人・金・時間)のROIを計算したい時、そのリソースに公式な責任を負う部門の指標だけに注目しても意味がない
- ある部門が、彼らが公式に責任を負わない指標を改善したいと思っても、公式に責任を負う部門のフォーカスを変えるのは難しい
理想的な組織では責任範囲と影響範囲が一致します。
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こうした理想的な組織とはどういう組織でしょう?お薦めの解決策へ一足飛びする前に、課題1と2を解決しようとした2つの組織例を見てみましょう。
組織モデル#1:サイロに分離する
カスタマーサクセスが営業やその他の部門に並列な存在なら、自身の指標について完全に責任を負うべきだという考え方の組織モデルです。
つまり影響力が限定されていても、手柄も責任も完全に各部門独自のものと考えます。
このモデルでは、すべての部門が主要指標1つか2つに責任を負います。
例えば:
・営業:新規ビジネスにおけるARR(年間経常利益)
・マーケティング:MQL(有望顧客リスト)
・カスタマーサクセス:グロス契約更新率とアップセルのARR
・サポート:チケットの処理時間
・サービス/オンボーディング:プロジェクト完了時間、サービスグロスマージン
今日のSaaS事業で最も一般的なモデルです。
このモデルでは各部門が自分たちの指標を達成するためリソースを奪い合います。Gainsight社ではこのモデルを「ライバル同士のチーム」と呼びます。
メリットですか?
あらゆる指標が、部門横断のリソース奪い合いの中で議論されつくす点でしょう。
デメリットですか?
各部門の行動が会社全体にとってネガティブな影響を生みかねない事です。
例えば:
- サポート部門はカスタマー体験が悪化することになっても問題解決時間を短縮しようとします。結果、カスタマーサクセス部門が責任を負うグロス契約更新率に悪影響がでます
- カスタマーサクセス部門は契約更新率の向上だけに集中し、大満足中のカスタマーに口コミ紹介をお願いする努力を怠ります。結果、より有望な見込み客を取り逃がす可能性があります。
- マーケティング部門は営業部門が嫌がる平均売価の低下を招くことになってもMQLリストを長くしようとします。
このモデルで以下に該当するのは、CEOのみです。
(a) 他部門の指標を気にする動機がある
(b) 各部門の行動に伴うネガティブな影響を最小化できる
CEOは「他部門の目標も頭に入れるように」と各部門長に促します。オフサイト会議を開催し、チーム間の摩擦を軽減し、部門横断的な活動でスローガンを語ります。
典型的なSaas企業のCEOの仕事が非常に難しい理由はここにあります。
多くのCEOがチーフ・オブ・スタッフと呼ばれるCEO室長を採用して、いろいろな汚れ仕事をさせる理由でもあるのです。
組織モデル#2:カスタマーサクセスを接着剤にする
私たちは企業経営的に#1が良いとは思っていません。
思っていないので、カスタマーサクセス部門がカススタマーの代わりにクォーターバックのように活躍する姿について散々書いてきたのです。つまり会社全体がカスタマーサクセスの実現に一丸となり各部門はそのために自分たちが果たすべき役割を考え行動する姿です。
このモデルでは、カスタマーサクセス部門以外の部門、つまり営業、マーケティングなどは各自の指標1つ2つに集中して各部門の仕事をする事を前提とします。
カスタマーサクセス部門の役割は、結果として生じる非効率からカスタマー体験が悪化するの回避することです。
カスタマーサクセスマネジャーの具体的な仕事は…
- サポートチームが時間短縮だけに注力せずカスタマー視点から望ましい解決策を推進するよう仕向ける
- 営業チームがプロダクトには時期尚早なカスタマーへ営業した場合、それを彼らに正しく伝える
- サービス/オンボーディングチームと協働し、オンボーディング中のカスタマーの不満・不安を解消し1日も早く価値を見出すよう動く
このモデルの悪影響は次の通りです:
- スタマーサクセス部門に体力が必要です ー 要はコストがかかります
- カスタマーサクセス責任者は強靱な実力者でなければなりません
- カスタマーサクセス部門が注意しなくとも各部門がカスタマー視点で考え動くのが理想です。カスタマーサクセス部門が見張り続ける必要があるということは、逆に言えば、カスタマーの満足を上げる機会を取り逃している状況です
- パターン認識には限界があります。カスタマーサクセスマネジャーは部門横断の問題は解決できても、各部門の専門性が必要なパターン認識には限界があります。
例えば、カスタマーサクセスマネジャーはプロダクトの専門家ではないのでプロダクトの改良が問題を解決できることを認識して対応することはできません
組織モデル#3:責任範囲と影響範囲を一致させる
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私たちが推薦するモデル、つまり「影響を及ぼせる指標のみに責任を持たせる」モデルです。
カスタマーサクセス部門を例に見てみましょう。
カスタマーサクセスマネジャーは新たな見込み客を見つけ出すことで新規カスタマーの獲得をリードしたり、また営業チームへ有望リードを紹介したり、既存カスタマーのプロダクト活用事例を提供したりるすことで成約率の向上に貢献します。
リード別に見込み客の成約率を分析したり、リードの紹介や活用事例がどれだけ効果があったかを分析したりすれば、カスタマーサクセスチームの活動がどれだけ新規ARRの増加に寄与したかを計算できます。

※数値はイメージです
つまり、カスタマーサクセスチームに新規ARRの目標をもたせるのは可能ということです。同モデルは、カスタマーサクセスマネジャーが通常責任を負わない指標への影響力を重視します。
最初の質問に戻りましょう。「カスタマーサクセスのROIは?」
ー その答えは、カスタマーサクセスチームが影響を及ぼせる収益指標の合計です。
新規カスタマーのARR増分に、 カスタマーサクセスマネジャーの活動が効いた契約更新とアップセルのARR増分を合計してみましょう

※数字はイメージです
上記の表で最も難しいのは増加係数(the Multipliers)を決める所です。でも一旦その係数を決められれば、カスタマーサクセスチームによる収益貢献を計算できるのです。
想像してみて下さい、カスタマーサクセスチームが収益貢献を週次で報告する状況を。
近く、カスタマーサクセスチームのROI計算に関する詳細な記事を紹介します。例えば、契約更新に伴い将来続く収益フローを生み出せれば(将来の契約更新という意味で)カスタマーサクセスのROIを、ARRでなくLTV(Lifet Time Value)という形でも計算できます。
ところで、カスタマーサクセス部門だけでなく、他部門にも責任とインパクトを紐付けられるでしょうか?
理論上は、どの部門も影響を及ぼせる1つ1つの指標に対し目標設定すべきです。下図は、どの部門がどの財務指標ターゲット(「T」)を基本的に持ちえるかを示します。
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カスタマーサクセスマネジャーが営業へリード紹介した成果をカスタマーサクセス部門が生みだした収益価値 (新規カスタマーからのARR増加分) と紐づけられるように、24時間以内に解決したサポート案件にカスタマーサクセスの収益価値 (契約更新ARRの増加分)を紐づけることも可能です。
この目標設定の仕組みは私たちGainsight社でもまだ試していません。
しかしSaaS企業が責任範囲と影響範囲とを一致させるより良い方法を求めているのは明らかです。このテーマの記事をまたご紹介する予定です。
カスタマーサクセスに挑戦する人が、知恵と勇気と仲間を手にする実践者コミュニティ「SuccessGAKO」
SuccessGAKO(サクセス学校)はカスタマーサクセスの未来を創る挑戦者を輩出する学び場です。カスタマーサクセスを追求するのに必要な知識を学び、自分で考え、実行することで、自社、顧客そして自身も成功することを目指す人のために誕生しました。経験豊富な講師陣による講義と受講生限定のコミュニティとが共鳴し、一方的な知識の習得でなく、仲間と切磋琢磨しながら行動することに価値をおいた実践者コミュニティです。
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