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    NPSとは何か:誕生の歴史、計算方法、そして「NPSは死んだ」論争の真実まで徹底解説

    「NPSを抹殺(Kill)すべきです」

    2026年6月に開催されたSaaStr CCO Summitのパネルディスカッションで、モデレーターが「今すぐ廃止すべきKPIは何ですか?」と質問したところ、LinkedIn、Carta、Content Squareなど名だたる企業のカスタマーサクセスリーダーたちの答えは満場一致で「NPS」でした。

    パネリストの一人は断じます。

    NPSとGRR(グロス収益リテンション)の間には大きな乖離があります。「御社を推薦します」と回答した顧客の財布は閉じている。NPSは完全にバニティメトリクス(自己満足の指標)です。

    NPS(Net Promoter Score、ネットプロモータースコア)とは、「この製品やサービスを友人にどの程度勧めたいですか?」というたった1つの質問で顧客ロイヤルティを測定する指標です。

    誕生から20年以上経つ今も、フォーチュン1000企業の3分の2以上が採用する、世界で最も普及した顧客ロイヤルティ指標です。

    2021年にガートナーが「2025年までに75%以上の企業がNPSの使用をやめる」と予測しましたが、実際はそうなりませんでした。NPSは消滅するどころか、今でも多くの企業が使い続けています。

    NPSは本当に「死んだ」のでしょうか。それとも、使い方を間違えているだけなのでしょうか。

    本稿では、NPSの基本定義と計算方法を丁寧に解説した上で、その誕生の歴史、活用事例、関連指標であるCSATやCESとの違い、そしてAI時代における最新の「NPS不要論」まで、NPSのすべてを網羅的に解説します。NPSを初めて知る方にも、既に運用中の方にも、新たな視座を得てもらえる内容です。ぜひ最後までご覧ください。

    1. NPSとは何か?

    NPS(Net Promoter Score、ネットプロモータースコア)とは、顧客ロイヤルティを測定する指標です。「この製品やサービスを友人や同僚にどの程度勧めたいですか?」という質問に対し、0から10の尺度で回答してもらうことでスコアを算出します。

    NPSは2003年にフレッド・ライヒヘルド氏がハーバードビジネスレビューの論文「The One Number You Need to Grow(成長するのに必要なたった1つの数字)」で発表した指標です。

    顧客満足度(CSAT)が「ある瞬間の満足」を測るのに対し、NPSは「この会社ないしプロダクトを他者に推薦するか」という行動意図を問うことで、より深い顧客ロイヤルティを捉えようとする点に特徴があります。

    2. NPSはどのように計算するのか?

    NPSの計算方法は極めてシンプルです。まず、回答者を3つのセグメントに分類します。

    1. 9〜10点をつけた人は「プロモーター(推奨者)」です。あなたのプロダクトやサービスに高い価値を見出し、周囲に積極的に推薦してくれる、最も重要な顧客群です。

    2. 7〜8点をつけた人は「パッシブ(中立者)」です。満足はしているものの、感動レベルには達しておらず、競合に乗り換える可能性もある層です。

    3. 0〜6点をつけた人は「デトラクター(批判者)」です。不満を抱えており、ネガティブな口コミを広める可能性がある層です。

    ふまえて、NPSは次の通り計算します。

    • NPS = プロモーターの割合(%)− デトラクターの割合(%)

    例えば、回答者100人のうち、プロモーターが60人(60%)、パッシブが20人(20%)、デトラクターが20人(20%)だった場合、NPSは 60 − 20 = 40 です。パッシブはNPSの計算上除かれます。

    スコアの理論値は、マイナス100からプラス100の範囲です。全員がデトラクターならマイナス100、全員がプロモーターならプラス100です。一般的に、NPSが0以上であれば「良好」、50以上であれば「優秀」、70以上であれば「世界クラス」と評価されます。

    通常、NPSの質問をする時は、「そのスコアをつけた理由は何ですか?」というオープンエンドの質問を組み合わせます。この定性フィードバックこそが、数字の裏にある「なぜ」を理解し、具体的な改善アクションにつなげるための重要な情報源です。

    3. NPSはなぜ生まれたのか?

    NPSの起源を辿ると、ある取締役会の場面に行きつきます。

    ベイン・アンド・カンパニーのコンサルタントであったフレッド・ライヒヘルド氏は、Chick-fil-AやVanguardなど高い顧客ロイヤルティを誇るブランドの経営者たちと、ロイヤルティ向上策について議論していました。その場でRent-a-Car社のCEOが話を始めると、全員が耳を傾けました。

    同社のCEOは、従来の複雑で欠陥のある顧客調査手法を使わずに、ロイヤルティを定量化する方法を見つけていたのです。その方法は極めてシンプルで、カスタマーにたった2つの質問をするものでした。「あなたのレンタカー体験のクオリティをどう評価しますか?」と「私たちからもう一度レンタルする可能性はありますか?」です。

    この方法は設問が少ないため、結果をほぼリアルタイムに得られ、遠隔地の支店にも即座に共有できました。そして同社は、最高スコアをつけた顧客の人数だけを数えるという大胆な判断をしました。最も幸せな顧客に集中することで、リピート購入と口コミ推薦という事業成長の2大ドライバーに直結する指標を手にしたのです。

    ライヒヘルド氏はこの着想を発展させ、2年間かけてベイン・アンド・カンパニーのチームとともに顧客満足度に関するあらゆる質問を検証しました。その結果、「友人や同僚にどの程度勧めたいか」という推薦意向を問う1つの質問が、実際の事業成長と最も高い相関を持つことを突き止めました。

    2003年、ハーバードビジネスレビューに発表された論文「成長するのに必要なたった1つの数字」は、経営者やマーケターの間で大きな反響を呼びました。以降、NPSの人気は指数関数的に拡大し、NPS測定の専門ソフトウェアが次々と登場しました。

    4. NPSの業界ベンチマークはどの程度か?

    NPSの水準は、実は業界によって大きく異なります。

    2025〜2026年のベンチマークデータによると、SaaS業界の平均NPSは約36〜41です。B2B SaaS企業では、40以上であれば平均以上、50〜65がトップクォータイル、70以上は例外的に高い水準とされています。

    例えば、中小企業向け給与計算プラットフォームを提供するGusto社は、4万社を超える顧客からNPS 75という驚異的なスコアを獲得しています。同社のチーフ・カスタマー・エクスペリエンス・オフィサーであるレキシ・リース氏は、SaaStr 2017の登壇で、その秘訣を「正道を行くこと」だと説明しました。具体的には、プロダクトを尖らせる戦略、ターゲットの厳格な絞り込み、顧客の声を聞き改善ループを回す文化の3つが柱です。

    日本国内のB2B SaaS企業に絞ったNPS平均値はマイナス17.3という数字が報告されています。海外の平均値と大きな差がありますが、これは日本のサービス品質が低いからではありません。日本人回答者が中央値付近(7〜8点)をつけやすい文化的傾向が影響しています。NPSの計算上、7〜8点はパッシブ(中立者)に分類されプロモーターにカウントされないため、日本企業のNPSは構造的に低く出やすいのです。

    この文化的バイアスは、NPSを国際比較で使う際の大きな注意点であり、後述するNPS批判の論拠の1つにもなっています。

    5. NPSと他の顧客指標はどう違うのか?

    顧客体験(CX)を測る指標はNPSだけではありません。代表的な3つの指標を比較します。

    1. NPSは「推薦意向」を測定し、中長期的な顧客ロイヤルティを把握するのに適しています。質問は「どの程度お勧めしますか?」の1つで、スコア範囲はマイナス100からプラス100です。

    2. CSAT(Customer Satisfaction Score、顧客満足度スコア)は、ある瞬間の満足度を測定します。「このサポート対応にどの程度満足しましたか?」といった質問で、通常1〜5または1〜7の尺度で回答を得ます。特定のタッチポイント(サポート対応後、購入直後など)での評価に適しています。

    3. CES(Customer Effort Score、顧客努力指標)は、顧客が目的を達成するのにどれだけ労力がかかったかを測定します。「この問題の解決はどの程度簡単でしたか?」といった質問で、顧客体験上のフリクション(摩擦)を特定するのに適しています。

    これら3つの指標は互いに補完関係にあります。CESが示す「労力の大きさ」は、CSATの満足度に影響し、CSATの積み重ねがNPSのロイヤルティに反映されます。つまり、顧客体験のフリクション(CES)を減らせば、満足度(CSAT)が上がり、やがてロイヤルティ(NPS)の向上につながるという構造です。

    6. NPSをどのように活用すべきか?

    NPSを効果的に活用するための実践ポイントとして、NPSの調査結果を踏まえてセグメント別にアクションを設計することが大切です。

    1. プロモーター(9〜10点)に対しては、まず感謝の意を伝えます。営業的なアプローチに走らず、彼らがブランドの援護者になってくれるよう働きかけることが重要です。レビューの投稿やSNSでの推薦、口コミ紹介プログラムへの参加を依頼します。プロモーターがリピーターになる確率は高く、新製品を試す確率はデトラクターの9倍、リピート購買は5倍というデータもあります。

    2. パッシブ(7〜8点)に対しては、なぜ感動レベルに達していないのかを理解することが何より重要です。プロダクトで期待した成功を達成できていない可能性があり、その理由を丁寧に探り対策をうつことで、プロモーターになってもらう可能性を追求します。

    3. デトラクター(0〜6点)に対しては、まず理想的な顧客かどうかを見極めます。そもそもプロダクトのターゲット顧客でない場合、彼らに適したソリューションを指南する方が双方にとって有益です。ターゲット顧客の場合、不満の根本原因を丹念に調べ、体験改善に投資する価値があります。

    調査チャネルの選択も重要です。

    イギリスのレシート銀行では、メールベースのNPS調査からアプリ内調査に切り替えたところ、最初の48時間で回答率が10倍に跳ね上がりました。アプリ内で調査を実施すれば、プロダクトを使っている最中のアクティブなユーザーから、文脈に即したフィードバックを得られます。同社はこの方法でフィードバックループを効果的に回し、わずか6カ月でNPSを40%改善しました。

    調査の頻度については、プロダクトのバージョンアップ頻度に応じて90日または120日ごとの定期調査が推奨されます。加えて、オンボーディング終了時、カスタマージャーニー上の重要なマイルストーン到達時、チャーン発生時にも調査を実施すると、より実用的なインサイトが得られます。

    NPSの結果を組織横断で共有することも必須です。プロモーターの回答はマーケティングチームへ、プロダクトに関するフィードバックはプロダクトチームへ、アップセルや口コミ紹介の機会は営業チームへ展開します。経営層のスポンサーを含むNPS推進チームを組織横断で編成し、定例会を開催して改善活動に優先順位をつけることで、NPSは全社的な改善エンジンとして機能します。

    7. NPSにはどのような限界があるのか?

    NPSは広く普及した一方で、学術的にも実務的にも多くの批判を受けてきました。主要な限界を整理します。

    1つ目は、業績との相関の弱さです。マーケティングサイエンスインスティテュートの調査によると、NPSは顧客の財布のシェア(実際の支出配分)の分散のわずか約1%しか説明できないという結果が出ています。つまり、NPSが高くても、顧客が実際により多くのお金を使ってくれるかどうかとは、ほとんど関連がないということです。SaaStr CCO Summit 2026でも、パネリストの1人が「NPSスコアは高いのにGRR(グロス収益リテンション)は低い。顧客は『推薦する』と言いながら離脱している」と指摘しました。

    2つ目は、計算上の情報損失です。0〜10の11段階の回答を「プロモーター」「パッシブ」「デトラクター」の3カテゴリに集約する過程で、スコアの粒度が大幅に失われます。6点と0点は同じデトラクターとして扱われますが、両者の顧客心理はまったく異なります。

    3つ目は、文化的バイアスです。前述の通り、日本人は中央値をつけやすく、アメリカ人は極端な値をつけやすい傾向があるため、NPSの国際比較は困難です。

    4つ目は、サバイバーシップバイアス(生存者バイアス)です。NPSは既存顧客にしか調査できないため、不満を抱えて既にチャーンした顧客の声は含まれません。結果としてスコアが構造的に高く出やすくなります。

    5つ目は、非回答者の問題です。SaaStr CCO Summit 2026の議論で指摘されたのは、「NPSに回答しない人々こそが最も注意すべき層である」という点です。回答率は一般的に低く、回答しない層にチャーン予備軍が集中しやすいため、NPSは見えている範囲の満足度しか捉えていません。

    6つ目は、タイミング依存性です。調査がたまたま繁忙期や障害発生直後に届けば低スコアになり、好調な時期に届けば高スコアになります。ある瞬間の感情を捉えているに過ぎず、顧客との関係の全体像を反映しているとは限りません。

    7つ目は、アクションへの転換の難しさです。NPSは「何が問題か」を直接教えてくれません。スコアが下がった理由を解明し、具体的な改善策に落とし込むためには、大きな「翻訳エンジン」が必要だとSaaStr CCO Summitのパネリストは述べています。

    8. NPSを経営指標にすべきでないのはなぜか?

    Gustoのレキシ・リース氏は、4万社超からNPS 75を獲得するという卓越した実績を持ちながら、明確にこう述べました。

    NPSは企業経営における重要な指標にならないと思っています。 NPSは驚くほど素晴らしい調査ツールです。部門横断で意味ある会話が生まれるキッカケになります。しかし、NPSは戦略ではありません。

    同氏が引用した名著「Uncommon Service」の著者フランシス・フレイ氏の言葉も示唆的です。

    NPSは信条に基づくものであって、根拠に基づくものではない。

    信条に基づく指標に多額の投資を注ぎ込んでも、それが目覚ましい進歩や費用対効果の高い成長をもたらすとは限りません。NPSが高いこと自体は事業戦略ではなく、プロダクトの差別化、ターゲットの明確化、顧客体験の設計こそが戦略なのです。

    レキシ・リース氏は、5つの問いを提示しました。

    1.  あなたの戦略は何ですか?
    2.  あなたのプロダクトは誰に適さない(嫌われる)のでしょう?
    3.  

      戦略が決まり、ターゲットも明確です。さてどうやって実行しますか

    4.  どうしても上手くいかない時はどうしますか?
    5.  あなたが譲れないものは何か?

    これらの問いに答えることこそが事業成長の核心であり、NPSはその結果として後からついてくるものだということです。

    2021年にガートナーが「2025年までに75%以上の企業がNPSを廃止する」と予測したのも、まさにNPSの経営指標としての限界を見抜いた上での予測でした。

    実際には多くの企業がNPSの使用を続けていますが、その位置づけは変化しています。経営の最重要KPIとしてではなく、複数の指標群の中の1つとして「格下げ」された形で存続しているのが現状です。

    9. AI時代にNPSに代わる指標は何か?

    SaaStr CCO Summit 2026のパネルで「NPSを抹殺(Kill)すべき」と満場一致した登壇者たちが、代わりに推す指標として挙げたのは、「Time to Value(TTV:価値実現までの時間)」です。

    TTVとは、顧客が契約してから最初の価値を実際に手にするまでの時間を指す指標です。

    パネリストの1人はTTVを「今の最優先指標」と明言し、こう説明しました。

    まず、自社プロダクトの『価値』を、自社目線ではなく、顧客の期待に照らして定義する。次に、その価値を顧客が手にするまでの時間を短縮する。TTVを短くできれば、GRRやNRRは後からついてくる。

    別のパネリストも同意し、実体験を共有しました。

    あるSaaS企業では、「受注完了」の定義を営業部門が決めるのではなく、実装フェーズで顧客が一定の基準を満たした時点とする仕組みに変えたところ、営業と実装の連携が劇的に改善したことで、ARRは800万ドルから2億ドルへと大きく成長し、IPOを実現しました。

    AI時代にTTVが重視される理由は明快です。

    AIプロダクトでは「価値の単位」が極めて具体的かつ離散的になるため、TTVを実測可能な指標として精密に追跡できるようになりました。従来のSaaS時代にはTTVは仮説的な数字にとどまることが多かったのですが、AIの時代には実際のメトリクスとして機能するようになったのです。

    Lovable社のカスタマーサクセス責任者モニカ・ペレス氏も同サミットで「ゼロ・インスタントTime to Value」を掲げ、「顧客が我々のプロダクトから受け取る価値と、我々が構築する価値の間にギャップがあってはならない」と主張しました。

    ただし、NPSを「完全に」廃止できる企業は限定的であることも議論されました。あるパネリストは「取締役会がNPSを気にしている。誰もがNPSの意味を理解している。Kill したいが、できない」と率直に認めた上で、「CSATとCESで補完し、複数指標を統合した複合スコアとして運用することで、NPS単独の弱点を補っている」と述べました。

    10. NPS 3.0とは何か?

    NPS批判の高まりを受け、NPS提唱者であるライヒヘルド氏自身も進化を図っています。

    2021年、ライヒヘルド氏はハーバードビジネスレビューに「Net Promoter 3.0」を発表し、著書「Winning on Purpose」を出版しました。ライヒヘルド氏は、NPSが誕生後20年近くの間に「悲劇的なまでに誤用されてきた」ことを認め、その改革を提唱しました。

    NPS 3.0の核心は、「Earned Growth Rate(アーンド・グロース・レート:獲得成長率)」という新指標の導入です。EGRは、既存顧客のリピート購入と紹介・推薦によって獲得した新規顧客から生まれる売上成長率を会計データから算出する指標です。

    EGRを計算するには、新規顧客全員に「なぜ当社を選んだか」を尋ねます。紹介や推薦がきっかけであれば「Earned(獲得した)」顧客、広告やプロモーションがきっかけであれば「Bought(買った)」顧客として分類します。

    NPSが「推薦の意図」を測るのに対し、EGRは「推薦の結果」を会計上の実績として捕捉します。「推薦したい」という感情や意見と、「実際に推薦し、それが売上になった」という事実の橋渡しをする指標です。

    ライヒヘルド氏は、NPSとEGRを「双子の指標」として併用することを推奨しています。NPSは顧客の感情をリアルタイムに捉える先行指標として、EGRはその感情が実際の事業成長に結実しているかを検証する遅行指標として、互いに補完し合うという位置づけです。

    11. 日本企業にとってNPSはどのような意味を持つのか?

    NPSは、クアルトリクス(Qualtrics)をはじめとするCXプラットフォームベンダーの積極的な市場開拓もあり、日本企業にとっても身近な指標になりつつあります。顧客満足やCXを重視する日本企業の中には、NPSを経営指標として採用しているところもあります。

    しかし、本記事で見てきた通り、NPSを経営の重要指標に据えることには大きなリスクが伴います。

    まず、日本のB2B SaaS企業のNPS平均値がマイナス17.3であるという事実は、文化的バイアスの影響を如実に示しています。この数字をグローバルのベンチマークと単純比較して「自社は遅れている」と判断するのは誤りです。

    次に、SaaStr CCO Summit 2026で繰り返し指摘されたように、NPSは業績指標(GRRやNRR)との相関が弱いという問題があります。NPSが高くても顧客が離脱するケースは珍しくなく、NPSを経営指標として追いかけるだけでは事業成長に直結しません。

    では日本企業はNPSとどう付き合うべきでしょうか。ここで2つの問いを投げかけます。

    問①:あなたの会社はNPSを「戦略」と混同していないか?
    NPSはあくまでツールであり、戦略そのものではありません。Gustoのレキシ氏が言う通り、「あなたのカスタマー体験戦略は?」と聞かれて「NPSです」と答えるのは、戦略の不在を吐露しています。

    問②:あなたの会社はTTV(価値実現までの時間)を計測しているか?
    顧客が契約から最初の価値を手にするまでの時間を短縮することこそ、更新率やNRR向上に直結する打ち手です。NPSスコアの改善に投じるリソースの一部を、TTVの短縮に振り向けることを検討してみてください。

    おわりに

    NPSは20年以上にわたり、顧客ロイヤルティを測る「たった1つの数字」として世界中の企業に採用されてきました。そのシンプルさは最大の強みであり、同時に最大の弱点でもあります。

    NPSは「死んだ」わけではありません。しかし、NPSだけで顧客の全体像を捉えられると考えるのは危険です。

    本記事の学びを3点に凝縮します。

    1. NPSは顧客の声に耳を傾けるための「入口」としては今も有効であるということです。部門横断の会話を生み、改善ループを回すきっかけとしての価値は変わりません。

    2. NPSを経営指標やKPIの頂点に据えるべきではないということです。業績との相関が弱く、文化的バイアスの影響も受けやすいため、CSAT、CES、TTVなど複数の指標で補完する運用が推奨されます。

    3. AI時代のカスタマーサクセスにおいて、本質的に重要なのは「顧客がいかに早く価値を実現するか」であるということです。Time to Valueの短縮こそ、次の時代の最重要指標になりつつあります。

    あなたの会社では、NPSをどのように活用していますか?
    そして、顧客が最初の価値を手にするまでの時間を、正確に把握できていますか?

    ぜひ本稿を機に、社内で議論してみてください。新たな視界が開けることを願っています。

     


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