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    9万5千点を扱うリコーがストック利益15%以上成長を実現する鍵は? 顧客軸でカスタマーサクセスを実践

    9万5千の商材を扱うリコーの「顧客軸」とは?中期経営戦略'26に学ぶ、カスタマーサクセスでストック利益を地層のように積み上げる方法

    日本の大企業の方が、「うちは取扱商材がとても多いので、SaaSのようなカスタマーサクセスはムリです」と言うのをよく耳にします。他社製品まで含めて幅広く取り扱う企業では、「SaaS企業と同じようにカスタマーサクセスへリソースを割くことは不可能だ」と考えてしまうようです。

    では、取扱商材が多い企業は、どのように売上成長しているのでしょうか?

    リコー(Ricoh)は、取扱商材が多い日本企業の代表格です。グループ会社のリコージャパンが運営する法人向け購買サイト「ネットリコー(NetRICOH)」では、他メーカーの商品を含め約9万5,000アイテムを扱っています(2026年5月現在)。

    リコーは、複合機(MFP)やプリンターで知られる製造業で、2026年3月期の売上高は2兆6,083億円、営業利益は907億円の大企業です。

    同社は2026年3月25日に「中期経営戦略'26(以降、「中経」)」を公表しました。そこで掲げたのは、「ストック利益」を重要指標とし、2022〜2025年度に6%だったストック利益の成長を、2030年度に向けて15%以上の成長へ引き上げるという非常に高い目標です。

    その高い目標に向かう中期経営戦略をカスタマーサクセス視点で読み解くと、1つの明快なメッセージが浮かび上がります。

    それは、商材が多いほど「顧客軸」でビジネスを設計することが売上成長の鍵だ、ということです。

    顧客軸でビジネスを設計するとは、顧客ごとに届ける成果と商材の順番を決め、それを起点にして営業・活用支援・追加提案を設計することです。

    本稿では、リコーの公開情報を基に、同社の中経について筆者が注目した以下のポイントと、そこから導かれる日本企業への問いをまとめました。

     - ポイント①:商材が多いほど、顧客軸でビジネスを設計する
     - ポイント②:大切なお客様(太客)を定義し、優先順位をつける
     - ポイント③:太客には、商材を地層のように積み上げる

    なお、リコーの公開資料では「カスタマーサクセス」「ICP」「顧客軸」という言葉を使っていません。以降は、筆者の言葉を多分に含むものである点、あらかじめご理解ください。

     

    1. リコーの挑戦:顧客軸シフトの背景にある意図は何か?

    リコーが顧客軸へ舵を切った意図は、「売れたのに、積み上がらなかった」という前中計の反省を踏まえ、既存の顧客基盤にストック利益を積み上げていく構造へ事業を組み替えることにあると筆者は考えます。

    前中計では何がうまくいかなかったのか?

    リコーは前中計の残課題として、「オフィスサービスの収益力向上のスピード」を挙げています。その理由の1つに、「一部の収益性の低いサービスのポートフォリオが先行した」とある点が重要です。

    これは、どういうことを意味するのでしょうか?

    ITサービスでは、まずさまざまな機材を設置し、その後にサポートやサービスが付随してきます。機材を設置する段階の収益性は高くなく、サポートやサービスはストック型で継続的に収益が積み上がっていきます。前中計の期間は、この収益性の低い部分が先行した、と同社は振り返っています。

    カスタマーサクセス視点で言い換えると、「1層目は売れたが、2層目以降が積み上がるまでに時間がかかった」状態です。そして、同じ顧客に複数の会社・チャネルが接していても、それだけでは積み上げに直結しない、ということでもあります。

    リコーはこうした課題を自ら開示し、次の打ち手につなげています。

    事業ポートフォリオをどう組み替えていくのか?

    中経では「事業の方向性」として、顧客(既存・新規)とプロダクト・技術(既存・新規)の2軸で整理した以下の図が紹介されています。

    ricoh01-business-direction-existing

    注:赤枠・赤線は筆者が加筆

    同図の中で、縦軸「既存の顧客」に対し、横軸「既存のプロダクト・技術」を売る領域、つまり主にオフィスプリンティングを販売する領域(上図の赤枠)の売上成長率は、年平均マイナス2% です。

    ricoh02-business-direction-workplace

    注:赤枠・赤線は筆者が加筆

    一方、同じ「既存の顧客」に対し、横軸「新規のプロダクト・技術」であるワークプレイスサービスという新しい価値を提供する領域(上図の赤枠)の売上成長率は、年平均プラス6% です。中経ではこの領域を「顧客基盤に対し、ストック利益を地層のように積み重ねる」と表現しています。

    つまり、既存のお客様に、複数の取引を積み重ねられるか・何を積み重ねるのか、それ次第で、売上成長がマイナス2%とプラス6%に分かれるのです。

    同時に、成長の柱であるワークプレイスサービスは、新規顧客を探すのではなく、「既存顧客に新しい商材を積み上げる」象限に位置付けられています。

    この方針は、「ストック利益の成長推移」における構成比の変化にはっきり表れています。

    ricoh03-stock-profit-mix

    注:赤枠は筆者が加筆

    同図をみると、リコーのストック利益に占めるワークプレイスサービスの構成比は、FY22の16%から37%へ高めることを目指しています。一方、FY22に66%を占めたオフィスプリンティングは42%までの縮小を見込んでいます。

    このようにリコーは、事業ポートフォリオを組み替えることで、「ストック利益」を軸に15%以上という高い利益成長の目標を達成する戦略を描きました。

    では、この戦略を具体的にどのように推進していこうとしているのでしょうか。

    以降、筆者が注目した3つのポイントと、そこから他の日本企業が得られる学びを紹介します。

     

    2. ポイント① 商材が多いほど顧客軸でビジネスを設計:リコーは商材の多さをどう強みに変えるのか?

    リコーは、取扱商材が多いことを自社の強みに転換します。その鍵は、「顧客軸」で商材を組み合わせる設計です。

    リコーのコア事業は製造業ですが、取扱商材は自社製品にとどまりません。自社製品も他社製品も、ハードウェアもソフトウェアも、保守も運用サービスも売る、多商材・リセル型の大企業です。

    リコーは、5年後のありたい姿を次のように表現しています。

    デジタルサービスの会社として進化を続け、お客様の働く場(ワークプレイス)において、自社・他社の製品やサービス、ソフトウェアを組み合わせ、お客様の競争優位と差別化に貢献するグローバル随一のインテグレーターになります

    そして、1つの具体例が中経で紹介されています。

    ricoh04-layered-stock-case

    注:赤枠は筆者が加筆

    「事例②:中小・中堅顧客(日本)」ページの左側は、ある中堅の土木工事業のお客様が、リコーの優良顧客になるまでの取引履歴です。

    横軸は時間軸、縦軸は取引の領域です。左下の1年目をみると、まず複合機からお取引が始まり、年を重ねるごとに、縦軸の領域の幅を広げ、セキュリティ機器、業務ソフト、そして5年目にはクラウドの業務支援ソフトまで、取引の層が地層のように積み重なっています。中でも赤字の取引は、リコーが注力しているストック利益を生む取引です。

    リコーの代名詞ともいえる複合機で取引関係を始めたお客様に対し、文字通り「ストック利益を地層のように積み重ねる」を数年かけて実現した様子がみてとれます。

    こうした「優良顧客化」は、商品軸だけで単年収益を追いかけていたなら決して実現しない、中長期での優良顧客攻略戦の賜物です。

    ricoh05-japan-os-stock-cagr

    注:赤枠は筆者が加筆

    同ページ右側は、こうした優良顧客への積み上げによって伸ばした、日本のOS(オフィスサービス)分野のストック利益の推移です。FY22からFY25見込みまで年平均15%(CAGR)で伸びています。

    リコーはこの実績を踏まえ、優良顧客化を進めてストック利益を積み上げ、成長率を引き上げることを、基本方針の筆頭「ストック利益の積み上げによる収益性向上」として掲げたのです。

    日本企業の問①:ビジネスを顧客軸で設計する利点とは何か?

    ビジネスを顧客軸で設計する最大の利点は、売上が「商品別売上の足し算」から「顧客との関係の深さに応じた積み上げ」に変わることです。そしてこの利点は、取り扱う商材が多い企業ほど大きくなります。

    『サザエさん』に登場する三河屋さんの三平さんを思い浮かべてください。お酒、醤油、お米と多くの商品を扱いながら、商品ごとに売り込んでいたわけではありません。磯野家というお客様を起点に、必要なものを必要なときに届ける。商材の多さは、顧客を起点に動く限り、強みになるのです。

    顧客軸のビジネス設計とは、どの顧客に、そしてその顧客ごとにどの成果を、どの順番で、どの商材の組み合わせで届けるかをまず決め、それを受けて営業・活用支援・追加提案を設計することです。

    カスタマーサクセスは、単品SaaS企業だけの話ではありません。「うちは商材が多いからカスタマーサクセスは難しい」のではなく、「商材が多いからこそ、カスタマーサクセスが効く」のです。

    そして、この利点が素晴らしいのは、顧客軸の設計が生む成長は複利で効く、つまり複利成長を果たせる点です。

    複利成長とは、既存の顧客基盤が来期以降の収益エンジンになる状態です。リコーの日本のOS分野のストック利益は、年平均15%で伸びました。年15%の成長が5年続けば、ストック利益は約2倍(1.15の5乗≒2.01)になります。

    あなたの会社のビジネスで、このインパクトを実際の数字にしてみると、挑戦しがいのある高い目標を設定できることがお分かりいただけます。

     

    3. ポイント② 大切なお客様(LTVが高い太客)を定義:リコーはどの顧客にフォーカスしているのか?

    リコーは、顧客軸へシフトすることで、ストック利益を積み上げられる大切なお客様を明確に定義して特定し、そこにリソースを集中していくことを宣言しました。大切なお客様とは、カスタマーサクセス視点で端的にいうと、LTV(Lifetime Value:顧客生涯価値)が高い太客(候補含む)です。

    同社が今中経で自社の強みとして挙げたのは、「顧客接点を通じて築き上げたパートナーとしての信頼」です。そして、その信頼を最も大きな成果につなげる対象として位置づけたのが、GMA(Global Major Account)です。

    GMAとは、グローバルで事業を展開する大手顧客に対し、国や事業を横断して統合的に価値提供を行うためのアカウントマネジメントの枠組みです。ビジネス規模は約2,000億円、前中計期間では実に1億7,000万米ドル(200億円以上)の増収を実現しました。

    今中経では、グローバル顧客の事例として、あるグローバル大手企業が紹介されています。

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    代表取締役 社長執行役員 CEOの大山晃氏は、説明会で次のように説明しています。

    リコーは、グローバルの会議室のマネジメントサービスの提供から開始しました。7,000の会議室に同一の機材を導入し、常時接続できるように監視・運用するサービスを獲得しました。

    これを機に、グローバルに任せられるサプライヤーとして信頼を得て、複合機のマネージドサービスであるMPSを獲得しました。お客様に適切な品質でタイムリーにプリントサービスを提供するもので、MFP6,000台を納入しています。さらに、バーコードラベルプリンター3,000台、商用・産業プリンターの導入へと展開していきました。

    このように、一度信頼関係を築くと、ビジネスが積み上がっていきます。このお客様一社で、売上は、US$ 85M以上、日本円で百数十億円の規模のビジネスとなっています。リコーが持つグローバルの強みを示す一例です。

    日本企業の問②:なぜ顧客に優先順位をつける(ICPを定義する)べきなのか?

    大切なお客様を定義する、つまり顧客に優先順位をつけることの利点は、限られたリソースを、より高いLTVが見込める顧客に優先配分することで、積み上げ効率を最大化できることです。

    過去の成功モデル、モノ売り切りモデルでは、買ってくれる人には誰にでも売りました。1回の取引で利益が確定するからです。

    一方、リテンションモデルは、顧客との関係を継続・拡大させることで、利益を時間をかけて積み上げるビジネスモデルです。2層目、3層目が積み上がらない顧客に売れば、獲得コストと導入の負荷だけが残ります。だからこそ、リテンションモデルでは「誰に売るか」が、その後の売上成長を大きく左右するため死活問題なのです。

    そこで、ICP(Ideal Customer Profile)を定義し、リソースの優先配分先を明確にすることが極めて重要です。ICPとは、自社のプロダクトやサービスが成果を届けやすく、長期にわたって取引が拡大し、大きなLTVが見込める顧客像を定義したものです。

    なお、ICPについては、記事「ICPとは何か:正しいカスタマーと共に売上成長する鍵」で詳しく解説していますので、ぜひご参照ください。

    ICPは、やわらかい日本語でいうと「太客(候補の属性)」です。太客と取引関係をもてれば、初年度の取引額は小さくても、中長期で高いLTVを見込めます。

    そのインパクトを数字にしてみると利点は明白です。複利効果の影響で、初年度の取引額とは桁違いの収益機会が期待できるからです。たとえば、取引額が年15%で積み上がる顧客なら、10年後の年間取引額は初年度の約4倍(1.15の10乗≒4.05)、10年間の累計は初年度の約20倍に積み上がります。

     

    4. ポイント③ 太客に商材を地層のように積み上げる:なぜリコーはストック利益を重要指標にしたのか?

    リコーは中経で、「顧客からの信頼の証として、ストック利益を重要指標とする」と明言しました。

    なお、中経では「ストック」を次のように定義しています。

    契約・利用・保守等により、月額/年額で継続的に発生する収益で、従来のOPノンハードに加え、サービス・ソフトウエア等の継続課金型収益を含む

    つまり、ストック利益とは、契約・利用・保守などにより月額・年額で継続的に発生する収益から生まれる利益です。一度売って終わりの「モノ売り型」の収益ではなく、顧客との関係が続く限り毎月・毎年入ってくる「リテンション型」の収益です。

    そしてリコーは、「達成すべき定量目標」として、このストック利益を2030年度に向けて15%以上成長させるという高い目標を掲げました。

    また、顧客との関係そのものも経営指標にしています。非財務目標の筆頭に「顧客からの評価」を置き、2030年度の目標を日本40%、欧州40%、北米38%などと地域ごとに設定しました。

    さらに、サービス関連のストック売上を2030年までに2025年比37%増やす目標も掲げています。つまり、「関係の質」と「関係の厚み」を並べて見ているのです。

    日本企業の問③:カスタマーサクセス活動の目的とは何か?

    カスタマーサクセス活動の3大目的は、「チャーン管理」「アダプション管理」「エンゲージメント構築」です。これを一言で言うなら、顧客が期待した成果/価値を届けることで信頼を積み重ね、次の商材が乗る土台をつくり続けることです。

    カスタマーサクセス活動の基本は、優れた顧客体験(CX:カスタマーエクスペリエンス)を通じて、顧客が期待した成果(CO:カスタマーアウトカム)を届けることです。SuccessGAKOでは、これを「CS=CX+CO」と表現します。

    最初に導入した商材で顧客が成果を得ていれば、さらなる成果に向けた提案ができます。成果が出ていなければ、提案は単なる「売り込み」です。つまり、2層目を乗せられるかどうかは、1層目の活用と成果で決まります。先のグローバル顧客の事例でも、次の商材につながったのは、会議室の運用を通じて信頼を獲得したからでした。

    顧客軸でビジネスを設計し、ICP/太客にリソースを優先配分した先に、彼らとの取引をより大きくするために何をすべきか? その時々のビジネスが抱える課題から、カスタマーサクセス活動の目的を具体的にして推進することがとても重要です。

    しかし、商材が多い企業では、商材ごと、事業部ごと、販売会社ごと、買収した会社ごとに顧客接点が分かれがちです。リコーも前中計の課題として「販売会社と買収会社のシナジー創出の遅延」を挙げ、今回、販売会社間のクロスオファリングの拡充や、本社によるガバナンス、マトリックス経営といった手を打っています。

    加えて、CX(顧客体験)は部門単位で改善できますが、CO(顧客成果)つまり顧客の事業上の成果は、複数の商材と複数の部門の連携があって初めて届けられます。カスタマーサクセスを一部門の活動にとどめず、経営の旗振りのもとで全社に広げることが、地層を積み上げるための必須条件です。

     

    結論:「顧客軸」で売上を積み上げられていますか?

    売上高2兆6,000億円超の日本の製造業が、中経の中心に顧客軸でストック利益を積み上げることを据えました。数多くの商材を取り扱う多くの日本の大企業にとって、これは注目すべき点です。

    ぜひ、あなたの会社の現在地を確かめるために、以下の3点を議論してみてください。

    1. 自社にとっての「ストック収益」を定義できていますか?
    リコーが「契約・利用・保守等により継続的に発生する収益」と財務の言葉で定義したように、ストック収益・利益を定義すること、そしてそれを経営指標として定期レビューすることが大切です。

    2. 自社の太客(ICP)を言語化できていますか?
    「今期たくさん売った顧客」ではなく、「将来的に取引を積み上げる余地がある顧客」の条件を定義すること、そしてそれを営業とカスタマーサクセスが同じ言葉で説明できることが大切です。

    3. 主要な顧客に対し、商材の「地層」を描けていますか?
    リコーの土木工事業の事例のように、何をどの順番で積み上げるのか、次に何を乗せるのかを、顧客ごとに1枚で示せること、そしてそれを営業とカスタマーサクセスが共有することが大切です。

    最後までご覧くださりありがとうございます。皆さまの事業に役立つヒントがあったなら幸いです。

    <出典>
    株式会社リコー「中期経営戦略'26」説明資料(2026年3月25日 会社説明会)
    株式会社リコー「2026年3月期 決算短信」(2026年5月12日)
    NetRICOH「NetRICOHとは」

     


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